ぼんやりと空を眺め、指先を見つめ、ローファーの汚れを見つめる。
「なんの決めつけなの?」呆れたゆうこの声が脳内でこだまする。
思い出したように先輩の写真をカバンから取り出す。
じっと見つめてみたり、少し離して見たり。
先輩の姿を指先でなんともなしになぞっていたとき、後ろから「あれ?」と声がかかった。
まさか、と息が止まる。
白川先輩だった。
身体中の血液が頭に集まり、顔がかあっと赤くなる。
血液の全部が、好きという気持ちに変わって、身体中を駆け巡る。
時間は止まり、息だけが早くなる。
「あれ、おれの写真?」と先輩が尋ねてきたとき、りかの言葉は、思考を超えて先に飛び出ていった。
「あの、好きです」
「……え?」
言ってしまった。
気づいたのは、言葉に出した後だった。
気づいたころには、足が震え始めていた。
さっき前髪割れてたけど、いまも割れてたらどうしよう。
急いで前髪を触る。
その瞬間、止めていたピンがとれる。
ばか、さっき前髪割れるからってピンで留めたじゃん。
ぐしゃぐしゃになったかも、走り去りたい、でも、体が動かない。
言わなきゃよかった。
困ってるかもしれない。
もう顔、あげれない。
ぎゅぅと目を閉じ、「わすれてください」と言おうとしたときだった。
「……おれも」
震えた先輩の声が、耳に届いた。
聞いたことのない、声だった。
でも、たしかに、自分に向けられた先輩の声。
目だけをきょろきょろとさせながらりかは「へ?」と声を漏らす。
先輩は、続けて言う。
「や、おれもずっと好きで」
「え……」
「夕方、階段に座ってるの、いつも見てた」
りかのローファーが、一歩前にパタンと音を立てる。
先輩の鞄のキーホルダーがカチャリと音を立てる。
夕暮れの赤が、空にほのかに広がっていく。