愛した人の「不在」に向き合う映画『トニー滝谷』
ここで市川準監督の『トニー滝谷』(原作:村上春樹)という映画を紹介したいと思います。
主人公であるトニー滝谷は、長い孤独の期間を経て、服を美しく着こなす女性と結婚します。
しかしその女性は事故で命を落とし、家には彼女の大量の衣服が残されました。
そして彼は、妻がいなくなったことに実感が湧いたら慣れていくだろう、それを理解するためには時間が必要だと思い、助手として雇った女性に勤務中は妻の服を着てそばにいることを要求します。
この映画には、形を変えて薄らいでいく感情や、不在とチューニングを合わせようとする行為、すなわち清算について描写されているシーンが多いです。
彼は結果的に記憶を感情の外へと押しやろうとしてしまうのですが、わたしはこの作品の主人公が、彼女の不在に切実に向き合おうとする姿勢に胸を打たれました。
埋めることのできない生活の中の空洞、胸の中の喪失感と共に生きていくということが一体どういうことなのか、それを考えるきっかけを与えてくれた映画です。
相談者様も、この映画を見られることで、自分なりの折り合いの付けかたや、どうしようもないことに対する寂しさへの考察が深まるのではないでしょうか。