正当に見えてしまう「束縛の理由」

 しかし、「優しさを身に着けて一件落着」とならなかったのは、先にも書いた通り、その彼が「1年365日のうち、360日くらい具合が悪い」タイプの人だったからです。
寝込むほどに具合が悪い場合だけ、看病するつもりでも、当の恋人がどれくらい具合が悪いかは彼に会うまでわかりません。「病院に行かないという選択肢を取っている人を、看病する筋合いはない」という物差しを手放したために、どこからどこまでが看病に行くラインか、行かなくてもいいラインかの判断が出来なくなってしまったのです。

 それからと言うもの、彼が求めるままに「具合が悪い」と言われると、看病に訪れるようになりました。
最初はわたしが世話をしに訪れることを喜んでいた恋人も、次第にそれを当然のこととして受け取り始め、やがて、「ちょっと今日は用事があるから、行けない」と断ると、「具合が悪いって言ってるのに、彼女としてもう少し気を遣えないのか」と、前にも増してわたしを責めるようになりました。ときに人格否定までされるのがしんどくて、仕方なく看病をする、という日々は、結局、その彼と別れるまで続いたのでした。

 別れた後に付き合った次の彼は、身体がとても丈夫でかつ、看病を求めない人だったので、「健康な人と付き合うのって、なんて楽なんだ」そして「看病を強制されないって、ありがたい」としみじみ思うと同時に「なんであの彼、あんなに身体が弱かったんだろう」という疑問も抱きました。

 本当にいつも、身体の様々なところが不具合を起こしているのです。もちろん、もともと身体が弱い体質の人がいることはわかっていますし、コンビニを中心とした不摂生な食生活だったのでいつも調子が悪くても仕方ない。だけど、いくらなんでも具合悪すぎだろ! と考えていた時に、知り合いから、ふとこんなことを聞きました。「精神的な調子が悪いことを、体調が悪いっていう人は多いし、精神的に病んでる人は、身体の調子もおかしくなりがち」と。

 それを聞いた瞬間に、めちゃくちゃ納得できました。
というのも、わたしの中には「ひょっとして『具合が悪い』を口実にして、わたしのことを束縛しているのではなか」という疑念があったからです。彼自身、体調が悪いことはつらかっただろうけど、それがわたしを束縛する正当な理由になりえるのは、都合が良かったのではないか。

 だから彼は、無意識にずっと体調が悪かった。あれは、病気と看病の共依存だったのではないか、とまでは考え過ぎかもしれません。けれど、それ以来、わたしは恋人にする男性の条件に「身体が丈夫」を入れました。いったい、いつの時代の婿選び基準だって感じですが……。

Text/大泉りか

次回は<あなたは3Pに何を求めますか?男性二人が不発でも満足した記憶の理由>です。
二人がかりで気持ちよくされちゃう……そんな夢みたいな妄想に包まれているのが3Pセックス。大泉さんも人並みにそんな3Pへの欲求を抱いていました。でも何回か3Pに巻き込まれて分かったのは、本当に求めている3Pのかたちは限定的だということ。全員イケてなかったとしても大泉さんは満足できた3Pとは?