プライドと甘えた言い訳とがぐちゃぐちゃになって

こうして、池袋のキャバクラで働くようになったのですが、しかし、わたしは悲しいほどキャバ嬢が向いていませんでした。というのも、キャバ嬢に必要とされる美貌もなければ、愛嬌もなかったからです。キャバクラは、指名を何本も取れて時給もそれなりにあがっていきますが、反対に指名が取れないと時給がさがり、あげくクビになることもあります。さすがにクビになるのは、避けたいけれど、どうやって指名を取れていいのかわからない。同じ時期に入った女のコたちを見ていても、見め麗しいコはもちろんのこと、可愛くてよく笑うコ、自信まんまんのコ、のんびりとしている癒し系のコと、みなきちんと指名が取れているのに、わたしは、いまいち売れないのです。

その理由が、今となってはわかる気がします。相手とふんわりとした話をしてキャッキャすることが苦手なのです。若い女のコのことを「箸が転がってもおかしい年頃」と言いますが、最も苦手なのは、そういう何がおかしいのかわからないことをノリだけで笑うこと。そして、困ったことに、目の前で起きていることには真顔で対処する癖がついている。しかもその真顔は、基本的に冷ややかなな表情なものだから、相手からすると心理的な距離を感じざるを得ない。これはキャバ嬢としては、致命的な欠陥です。

「どうしよう……このままじゃ首になる……」と思ったものの、対処のしようがない。いや、変えようと思えば変えることも出来るのかもしれないけれど、そこまでの努力はしたくない。変えることは難しいことなのに、それが出来ない自分を棚に上げて、「自分を変えてまで指名を取ってどうする、別にただのアルバイトなのに」というプライドと甘えた言い訳とがぐちゃぐちゃに入り混じった状態で、ほぼ最低時給(といっても時給二千五百円もらえるのはさすがの都心のキャバクラ!)で過ごしていました。

が、一方で、こんな思いもありました。「こんなわたしでも、そのうち、気に入って指名してくれる人が現れるかもしれない」という希望です。書けば書くほど、「婚活している」と言いながらも、いつまで経っても彼氏が出来なくて焦っているアラフォー女性のような心持ちです。けれど、この気持ちは実は今でも引きずっています。運よく希望するような相手と結婚が出来たからよかったものの、今もわたしはどこかで、「変えることの難しさ」を見ないふりをして「選択として変わらないでいる」と思い込み、そして「自分を変えてまで指名を取ってどうする」とも思っている部分があります。

しかし、希望というものがないわけではなく、そのうち、そんなわたしでも興味を持って、指名してくれる男性がチラホラと出てきました。が、その男性たちが、待っていたような、お金と権力を持った素敵な王子様だったかというと、また話は別です。その話は次週に。

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Text/大泉りか