ライター・書評家の倉本さおりさんによる、女子と本に関する連載がスタートします! 新書、小説、エッセイからマンガまで、さまざまなテキストから浮かび上がってくる“女子”の因子をいっしょに解析しませんか? 今回はプレ回として、2013年の「女子と本」をお送りします。
【女子÷テキスト】 第0回「2013年の“女子”と本」
「こじらせ女子」がノミネートされた2013年の流行語大賞。
とっくに日常に馴染んでしまっている表現かもしれませんが、世代や性別が違えばまた新鮮に映るということを物語るニュースでもありました。
一方、“女子”ということばへの嫌悪感の一端が露わになったケースとして、『anan』の「もう“女子”は卒業です!」宣言もすくなからず話題にのぼりました(※https://www.j-cast.com/2013/09/08183151.html?p=all)。
むしろこの一件で興味深かったのは、“女子”のニュアンスが発信者と受け手の間だけでなく、受け手の中でもずいぶんばらつきがあるということ。
つまり、いまだ整理されていない“女子”の位相――そんなアンタッチャブルなテーマにさまざまなテキストの力を借りつつおそるおそる挑んでいこうというのがこの連載の無謀な趣旨であります。
プレ回の今日は、2013年に出版された“女子”をタイトルに冠する書籍の中でも、ちょっと変わった角度から私たちのことばを照らしてくれるタイプの本を選んでみました。
情報誌やファッション誌から発信される「女子」や「女子力」とはなんとなーくウマが合わない、という方にもおすすめしたいテキストです。
進化した女子会は“女子力”を謳わない 『女子会2.0』 ジレンマ+編集部 NHK出版
もしも“女子会”のメンバーが全員、気鋭の女性論客だったら――?
そんな若干おそろしげな想像を実現させてしまったのがこの『女子会2.0』。
ふわふわのパンケーキをいろんな角度から撮影して愛でる代わりに、今の20~30代女子を柔らかく覆う不安の正体について、具体的かつ多角的に語り倒しています。
雇用の現実や社会背景、女性誌の掲げるキャッチコピーの変遷――彼女たちの舌鋒によって明らかにされるのは結婚市場の実態、そして「専業主婦」という甘やかなゴールの崩落です。
とりわけ「本当に女子力が高い人は、自分も騙していますからね」のひと言は破壊力抜群。
「女子力アップ」をいたずらに謳う前に、「女子力アップ」で本当に得られる対価を考えてみる――こうした合理的な思考の力で会話が小気味よくころがっていく快感は、まさしく進化した女子会のなせるわざ。
とはいえ“女子会”を名乗るからには、四角四面のエビデンスで固めていくテキストとはひと味違う。
時には「長年週刊誌を読んできた下世話なデータ」を持ちだしたり、「『ときメモGirl’sSide』(※女性向け恋愛シュミレーションゲーム)ですらもうまくできない」といった個人的なトホホ体験を引っぱりだしたり。
トークが柔軟に伸び縮みする面白さも特色のひとつです。
加えてポイントとなるのが85年生まれの古市憲寿さんの存在。
ここで扱われる“女子”と対になるような“男子”がちゃっかり混じっている点でしょう。
結婚によって自分の生活レベルを下げたくない。
むしろ「階層上昇を図りたい」なんてさらっと言っちゃう、ある種の典型的現代男子。
あくまでオブザーバーとしての参加のため、とりたてて何をするわけでもないのですが(ごめんなさい)、そういう生身の“男子”が場に存在することによって、ともすれば“女子である”という共感だけでぱんぱんに膨れがちな空気が定期的にすうっと落ち着く。
話題はシビアでも、息苦しさとは無縁の“開かれた女子会”がここにあります。