おひとりさまインドで日本の価値観から自由になる

深夜2時。僕は、中国人のジャックと、インディラ・ガンディ国際空港で送迎車が来るのを待っていた。日本からインドに行こうと思うと、深夜着の便しかない。インドで一番やっかいなのがこの深夜着問題。交通手段がタクシーしかないので、乗らざるを得ないのだが、目的の宿に連れて行ってもらえないのだ。必ずツーリストオフィスに連れて行かれて、高額のツアーを申し込まないといつまでも宿には辿りつけない。仕方なくバックパッカーは、朝まで空港で過ごす。
インドは女性のひとり旅が圧倒的に多い。彼女たちが空港で朝を待つ光景を眺めながら、僕はタバコを吸い、不思議な気持ちで送迎車を待つ。ホントは僕もあっち側だったのだ。

ひとり旅のほうが出会いがある

おひとりさまインド旅の画像

僕は7年前、休暇を利用してひとりでインド旅行に出かけた。成田発、北京経由、ニューデリー行き。北京での乗り継ぎでひとりの中国人青年と出会った。僕が読んでいた小説を不思議そうに眺めながら、それは誰だい?と話しかけてきたのだ(ちなみに読んでいたのは舞城王太郎のディスコ探偵水曜日)。向こうは英語ペラペラで、僕は英語が苦手。
彼の話を必死に聞き取り、質問を投げた。彼はジャックと名乗った。中国の天津生まれで天津大学を卒業したあと、中国のIT企業としては最大手になる華為(ファーウェイ)という会社に就職した技術者で、年齢は26歳。メガネをかけていて、細身の体。見た目は日本人とあまり変わらない。インドにある支社で3ヶ月間開発を行うためにムンバイに行く予定だが、その前にデリーで打ち合わせがあるためにこの飛行機に乗ったということだった。年齢も比較的近かったので(このとき僕は29歳だ!)なんとなく波長があった。とりとめのない話を続けていると
「今日のホテルはどこなんだ?」
と彼が聞いて来た。僕は、ホテルは決めてない。デリーの街に出てから適当に探すと答えると、凄くびっくりしたようだった。
「それは危ないよ。よかったら、僕の社宅の部屋にひとつ空きがある。そこに泊まればいい」
と彼は言った。僕は渡りに船と快諾し、深夜の空港につくと、路上で寝ているインド人をかき分け、送迎車が来る場所まで向かった。

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車はどんどん郊外へ走る。もやっとした熱気で街の灯がぼやけて見える。
高速道路の標識には「グルガオン」の文字。そうか、僕はグルガオンに向かっているのか。インドの別の顔として知られIT系の企業が密集し、巨大スーパー、タワーマンションと、イメージのインドとはかけ離れた近代的な、まるで箱庭のような街。着くと巨大なマンションに入り、疲れていたのかすぐに寝た。