幸せな自分だけでなく、幸せでない自分も肯定する眼差し

楽しいことや嬉しいことがたくさんある毎日と、嫌なことばっかりで不満がたまる一方の毎日だったら、私ももちろん前者を選びたい。だけど、アルコール依存症で、暇さえあれば(暇がなければ無理やり作り出して)酒のことを考えているような過酷な日々でも、人の心は揺れ、思考は動き、しっかりと眼差しを向ければやはり物語がある。それは生きることそのものであり、もしかしたら「幸せ」よりも大切なことなのではないだろうか。

幸せな自分しか肯定できないと、息が詰まってしまうことがある。そこで、過酷な日々を送る自分がいてもいいと、幸せでない自分も肯定できるようになると、生きることはぐっと豊かになる。『掃除婦のための手引書』は私にとって、そんなことを教えてくれる小説なのだ。