
「寿司と指輪は自分で買おう」とは西原理恵子さんの名言ですが、わたくしごとをいうとずっといまいちピンとこなかった。というのも、そもそもひとりメシだったり、女友達と飲もうという時に寿司という選択肢がなかったからです。「ちょっと美味しいもの食べたいよね」という時には、イタリアンや、韓国料理や火鍋といったスパイス系などのエスニックは候補として出てくるけれど、旅行で漁港を訪れた時などはさておいて、寿司でも食おうかと女友達に提案したことはもちろん、ひとりで寿司屋に入ったことも、わたしの記憶を辿る限り一度もない。
もちろんのこと、寿司屋のカウンターに一度も座ったことがないわけではなくて、大学時代にキャバクラでバイトしていた時にお客さんに連れていってもらったり、出版社で働いていた時に上司が経費で食べさせてくれたり、年上の恋人が奢ってくれたりはあったし、あと昨年離婚した元夫は、かつて寿司職人をしていたという経歴の持ち主だったせいか、わりと気軽に寿司屋の暖簾をくぐる人で、中野にある大衆的な店に、よく一緒に食べにいっていた。
奢っていただけるという前提のもと、「寿司でいい?」といわれて断りはしない……というか、むしろ喜ぶけれども、わざわざわたしから寿司を指定したこともないのではなかろうか。寿司とわたしは、長きに渡ってそれくらいの距離感を持ってお付き合いをしてきたのですが、最近ちょっと変化の兆しがあるのです。
寿司を自腹で食べる女に…
というのも猫町倶楽部という読書会で知り合った、歌人かつSmappa!GroupのホストのSHUNさんが、新宿の歌舞伎町でお寿司屋さんをやっているのです。『へいらっしゃい』という店名の、一組貸し切りのコースのみのお店なのですが、せっかくのご縁だからと友人らと食べにいったらこれがめちゃくちゃ美味しい上に、お値段も自腹で払える金額。SHUNさんが超イケメンなのはいわずもがな、ホスピタリティも素晴らしすぎて大感激。そのことを女友達などにそのことを伝えると皆「行ってみたい!」と目を輝かせるもので、先日3度のリピートを果たしたというわけです。アラフィフにしてついにわたしは、寿司を自腹で食べる女に進化した!
やっぱり自腹で食べる寿司はひとしお美味い……ということはまったくなく、人のお金で食べてもおそらくまったく変わらずに美味いというのが正直なところですが、「また、このお寿司を食べるためにがんばって働くか」と思えるので、少し背伸びした自腹での外食というのがたまにあると人生に張りが出てよいですね。が、一方、指輪についてはいまだピンと来ません。やっぱり男性に贈ってもらいたい。だって「好きな人に贈ってもらった」というストーリーがあるほうがロマンチックじゃないですか。
Text/大泉りか