「お母さん? うん、いま着いた。これから帰るから。え? うまくいったよ。あー、まあ、後で話すよ、じゃあね」
就職活動の帰り道。キミコは駅から自宅に電話を入れると、日が落ちたばかりの商店街を歩き始めた。
この時間、人通りはまだ多くない。あたりにはさわやかな風が吹き渡り、秋の訪れを感じる。
実際、今日はうまく話せた。もしかしたら、ようやくこの墨汁色のスーツともさよならできるかもしれない。
キミコは鼻歌でも歌いたいような上機嫌に任せて、ちょっと寄り道でもしていこうかと考える。が、あとで母に小言を言われるのはめんどうだし、絆創膏を貼った靴ずれもいい加減痛いしで、むしろ近道をすることに決めた。
八百屋の先の角を左に曲がって裏路地を抜ければ、かなりのショートカットになる。幅1.5メートルほどの暗い裏通りに勢いよく入った途端、ひと組の男女がしっかりと抱き合っているのが眼に飛び込んできたから、キミコは慌てて引き返す・・・
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