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  • 2016.12.05

私にだけ向けられる男のドス黒い欲望が欲しかった/『ゲスママ』著者・神田つばきさん(前編)

40代でAV女優デビューするなど激しい人生を綴った自伝的小説「ゲスママ」著者として知られる神田つばきさん。SM業界に飛び込むきっかけとなったのは、小学生の頃に男友達にかけられた「縛りたい」という言葉でした。支配されることでしか満たされない欲望を突きつめて気づいたこととは?

AM 特集 支配されたい ゲスママ 神田つばき神田つばきさん

 ちょっぴり強引な男性に惹かれる。妄想の中では、むりやり犯されるシチュエーションや、自分をモノのように扱う男性に身を委ねる姿を想像して興奮を覚える。――そんな女性も多いのではないでしょうか。
ドラマ物AVのシナリオライターで元AV女優の神田つばきさんは、そんな“支配されたい欲求”を満たそうと離婚を機に38歳でアダルト業界に足を踏み入れ、男性にいたぶられたいという思いをストイックに突き詰めてきた女性です。今年9月には被支配欲に生きた半生を綴った自伝的小説『ゲスママ』も出版しました。そんなつばきさんだからこそ分かる「支配されることで手に入れたモノ、失ったモノ」についてお話を伺いました。

縛られたい、いたぶられたい願望は6歳の頃から抱いていた

――著書『ゲスママ』では「支配されたい」という欲望を抱えたつばきさんご自身について綴られていますね。

神田つばきさん(以下、神田):過激でしょ(笑)。でもね、“支配されたい欲求を行きつくところまで実現したらこうなりました”っていうリポートのような気持ちで書いたんですよ。だから、こういうことをした方がいいとか、これはやめた方がいいとか言うつもりは1ミリもないです。欲求を突き詰めて「黄泉の国の一歩手前で引き返してきたんだな」っていう、旅行記のような感覚で読んでいただければいいかなって思います。

――旅行記とは斬新ですね。(笑)それでは、つばきさんが「縛られたい」とか「いたぶられたい」という自身の欲求に気づいたのはいつ頃でしたか?

神田:はっきり意識したのは6歳の頃です。そのときはまだ縛られたり意地悪されたりするアニメのシーンが好きっていう程度でした。はじめて性的な想いと結びついたのは7、8歳くらいで、近所のお兄ちゃんに「縛りたい」と言われたときです。そのときは断ってしまったのですが、後々オナニーのときはいつもそのお兄ちゃんのことを考えていましたね。

夫が敵になった瞬間

――欲求だけで実現はしなかったんですね。

神田:はい。結婚すれば自分の性的な欲望は全解放できると思っていたので、結婚するまでは自分の性的な願望にフタをしていました。そして、晴れて結婚した後のある夜、主人にバンダナを渡して「縛って」って言ってみたんですよ。そしたらすごく嫌な顔をされて、引かれちゃったんです…。そのときからもう、夫は私にとって敵になりましたね。

――なんとも大胆な誘い方ですね(笑)

神田:今思えば唐突だったな、と思います。その一件から夫もあんまり求めてこなくなっちゃって。欲求不満を解消するために隠れてSM小説を読んでいるうち、私は男性に支配される陰惨な話じゃないと興奮できないんだってわかったんです。それで、別居を始めたタイミングでツーショットダイヤルを介してSMの世界に足を踏み入れました。

セックスに1回1回意味を求めていた

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――実際のSMの世界は、求めていた通りのものでしたか?

神田:ツーショットダイヤルにかけてくる男性は、SMをやりたいという人も含めてみんなライトなんですよ。「支配したい」なんて1ミリも思ってなくて「割り切って遊べればイイ」という感じ。爽やかすぎてついていけなかった…。私は性をそんな風に割り切れなくて、セックスにもSMにも1回1回意味を求めていたんです。肉欲はあるのに「あなたはどうして私を縛りたいの?」なんて男性に聞くものだから、重たがられていましたよ(笑)。

――期待して飛び込んだSMの世界に、求めていたものはなかったんですね。

神田:なかったですね。私の中には「自分より優れている人が、私にだけドス黒い欲求を向けて、監禁してくれて、ほかの女性にはできないようなひどいことをしてくれる」みたいなストーリーがあって、「私にだけ」「私じゃなきゃダメ」っていう支配を求めていたんです。それと、いたぶられて泣いている惨めな自分も認めてほしい、愛してほしいという気持ちが強かったですね。

痛いことが好きでSMをやる女子はほとんどいない

――自分のプラス面もマイナス面も含めて、あるがままの自分を愛してほしいと願う女性は、多い気がします。なぜ、女性たちはそのような欲望を抱くと思いますか?

神田:そうですね。今になってみれば、「支配されたい」という気持ちって結局は依存なんじゃないかなって思います。というのも、最近読んだ中野信子さんの『脳内麻薬』という本に、自分のための恋愛を繰り返す「恋愛依存症」について書かれていて。はじめは、恋愛の幸福な感情にときめくんだけど、やがて相手を失う不安感にさいなまれる。そしてさらに重症になると、他の相手から恋愛感情を得るためだけに浮気に走ってしまう…と。これ、恋愛をSMに置き換えたら、まさに私だなと思って。自分がSM依存症だったことに初めて気づいたんです。
私は「お前じゃなきゃダメなんだ」って言ってくれる男性と愛し合いたくて強い被支配を求めていましたけど、結局は相手のことを人間として見てなかったんだなって。自分の欲望を満たすために男性の性欲を利用しまくっていただけだったんです。相手に向けた愛情ではなかったんですね。

――心当たりがありすぎて、耳の痛い話です…。

神田:女性は本能で「お前じゃなきゃダメ」っていう特別感が欲しくなるんじゃないかな。SMってひどいことをされるけれど、痛いのが好きでやっている女の子はほとんどいないんですよ。痛いのは痛いし、苦しいのもイヤなんだけれど、「自分にだけやってくれている」と思うとすごいスペシャル感があって高揚するし、不思議な幸福感があるんです。娘たちが読んでいるコミックスなんかを見ても被支配系の話は多いので、女性には「特別感を得るために支配されたい」願望があるのかなって。私の場合はその手段がSMだったんだと思います。

(後編に続く)

(文/千葉こころ)

神田つばき
38歳のとき、子宮頸がんを患い子宮を全摘出し、それを機に離婚。その後「緊縛美研究会」にモデルとして参加し、41歳からライター、AV女優として活動をスタート。
NPO法人女性の健康とメノポーズ協会認定「女性の健康とワークライフバランス推進員」を務めるなど更年期女性へのアドバイスコラムや、「ドラマものAV」の脚本家として活躍している。今年9月には、自叙伝的小説『ゲスママ』を出版した。 ツイッター:@tsubakist

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