悲しみを受けた心との向き合い方を考える『悲しむのは、悪いことじゃない』

 愛する恋人に裏切られたとき、何らかの理由で愛する誰かを失ったとき、人は心にポッカリと穴が開いて、悲しみに打ちひしがれる日々を送ります。
このようなときに、他人は「いつまでも悲しんでいてはいけない」「新しい恋をしたほうがいい」など励ますつもりでアドバイスを投げかけ、自身も「周りの人のためにも、自分のためにも早く忘れなければ」と悲しみを打ち消そうとすることがあるようです。

 本書の著者で精神科医である香山リカさんは、悲しみが襲いかかって来たときには、急いで次のステップに進むのではなく「立ちなおるためにはちゃんと傷つくことが必要」だと綴っています。
例えば自分を裏切った恋人のことを早く忘れるために、無理やり新しい恋人をつくった場合、悲しみや絶望は一旦“保留状態”になり、一見立ちなおったように見えても突如として激しい不安状態に襲われたり、パニックが起きてしまうことがあるといいます。
または、元気に暮らしているはずなのに「今一つ楽しくない」「充実できない」といったおかしな状態が続く人もいるのだとか。次のステップに進む前には自然に行動できる時間まで待つことが必要。
そうすることで新しい現実に向かい合うエネルギーを得ることができるのだそうです。

 この本には、悲しみに襲われたときの自分の心の持ち方、周りの人の寄り添い方、なにかを失ったあとで得られる幸せなどについてが、香山さん自身の体験や、患者さんのエピソードを交えて紹介されています。
 忘れられない悲しみから解放されるために悩み続けている人、失恋から立ち直ろうとしている人、一度立ち止まって自分の感情と向き合ってみてください。その傷が癒えたときに、新しい恋が始まるはず!

書名:『悲しむのは、悪いことじゃない』
著者:香山リカ
発行:筑摩書房
価格:¥1,470(税込)

Text/Yuuko Ujiie