仕事や生活に忙殺されて、季節の移ろいに無頓着になっていませんか?
この本は、自然に囲まれた鎌倉の谷戸に40年暮らす料理研究家の辰巳芳子さんによるエッセイ集です。
四季折々の庭で感じられること、両親の思い出、自然から得た料理レシピを、1月ごとの12章にわけて紹介しています。
また、あわせて掲載されている花木の写真は、自然の生命が伝わってくるような力強い作品ばかり。
写真を担当した小林庸浩氏は、辰巳家を訪れるうちに庭に魅了されたといいます。
12章のなかから、1つご紹介します。
4月、この本の執筆を進めている辰巳さんの書斎からは、しだれ桜が見えています。
樹齢50年のしだれは「全身ティアラをつけたような輝きで美の極みを示している」と辰巳さんは綴っています。
辰巳さんの父母は生前、テラスで肩を並べ、このしだれ桜を前に「きれいだねえ」とほほ笑みを交わしていたそうです。
辰巳さんは、2人が亡くなったのち「月光の花吹雪につつまれ、夜の更けるのも忘れていましたね」という恋文を膨大な恋文のなかから見つけたことを打ち明けています。
また、父母は2人だけの微笑みを見せることがあり、辰巳さんは「ゆるぎなくムスばれていた人間の、咲顔だったのでしょうか」と書いています。
恋人とのデート。
映画も遊園地も素敵ですが、ときには自然に目を向け、季節の移り変わりを共に肌で感じてみてはいかがでしょう。
風にそよぐ草花は、2人の時間を穏やかに、ゆったりときざみ、2人でいることの幸せを自然に教えてくれるに違いありません。
書名:『庭の時間』
著者:辰巳芳子
発行:文化出版局
価格:¥1,680(税込)
Text/Yuuko Ujiie