かつての彼氏を忘れられないことは、未練ではない
元彼のことを忘れられないのも、それを今の恋人に申し訳なく思うのも、それはあなたの情の深さであり、優しさです。
わたしはそれを美点だと感じます。
恋人と別れ、その人が生活からフェードアウトした途端に過去をぞんざいに扱ったり、自分とは関係のなかったことであるかのように思いはじめてしまう人はとても多いです。
しかしその中で、今でも泣いてしまうということは、愛を知っている証拠なのかもしれません。
時間が経ってもひとりの人間に対して抱いた思いや、費やした時間のことを、確固たる人生の一部として大切にしているのだという印象を受けます。
だとすればそれは素晴らしいことだと思います。
ここでエリザベス宮地さんの撮影した『バラ色の日々』という曲のMVを紹介したいと思います。
MOROHAというアーティストによるこの楽曲に、宮地さんが「バラ色の日々でどうしてもMVつくりたいんです。ギャラいらないんで」と申し出たことから製作がはじまり、五ヶ月に及ぶ編集を経て公開されたそうです。
終わってしまった恋にまつわる思いを歌った歌詞に合わせ、宮地さんが過去に交際していた女の子の、プライベートの映像と写真を十分弱に及び羅列したこのノンフィクションの映像は、MVという枠を超えて観る側の心の琴線を容赦なく揺さぶります。
この映像について宮地さんは、「映像作家として生殺しにしたくはなかった」と語っています。
過去の恋に再び命を与えるということの葛藤はきっと想像を絶するものなのではないでしょうか。
わたしはこの映像を見て、何かを作っている人ではなくても、過去の日々やそれに付随する記憶のやわらかい部分に傍線を引き続けること、そして傍線を引いた部分を大切にするということは、回避するべきではない尊い行為だと強く感じました。
この作品を見ることで、もう一度ご自身の過去の恋のことを見つめ直すきっかけになれば、思い出が何か別の意味合いを持って色付くのではないかと思います。
「元彼を愛していた(そして今でも思い出の中でかけがえのない存在である)」ことと、「現在の恋人を愛している」というふたつのトピックは、同居していても問題ありません。
思い出してしまう・忘れられないということは、未練やひきずっているということと、必ずしもイコールではないのです。
現在の恋愛が過去の恋愛の上に成り立っているという状態は当然のことであり、それは決して恥ずべきことではありません。
あなたが過去の恋人・現在の恋人のどちらに対しても、朗らかにひたむきに向き合える日が来ることを願っています。
(つづく)
TEXT/はくる
初出:2016.05.04