「かけがえのない存在」に簡単になる

鈴木涼美さんがインタビューを受けている画像

――「自分の価値の証明」以外にも、お金を使う理由ってあるんでしょうか。

ホストに必要とされるので、「誰かにとってかけがえのない存在になる」っていう人生の縮図みたいな目的も達成されます。女性としては「お金じゃない他の面でお前じゃなきだめだ」とか思われるのが本望なんですが、そう思われる簡単な方法論はない。だから、すごく簡単な方法として、お金を使って「かけがえのない存在」になることができます。

――やっぱり「自分のため」なんですね。

あと、お金を店にツケ払いとかまでして使うってスリルが中毒化してるせいもあると思います。

でも、根幹にあるのはやっぱり「自分の価値の証明」じゃないかな。
夜の仕事って完全能力給。会社員なら仕事する人もしない人も同じ給料ですよね。でも、キャバクラならすごく美しい人や営業力が高い人は時給が上がる。風俗なんてもっと露骨で、月収ゼロの人もいれば100万稼ぐ人もいる。
夜の仕事やホストクラブは「自分の価値の証明」の場として機能してるなって思います。

――ホストのためというより、自分の価値を証明し続けているんですね。どこかで辛くなるんでしょうか?

みんな精神を病みながら、シャンパン飲んで頑張ってる感じです。私自身はそれがいいとは言わないけど、その飢餓感みたいなものがここまで露骨に出るのは面白いなと感じます。

――病まずに楽しいところだけとって遊ぶことはできるんでしょうか??

働くことに病んでるのか、遊ぶことに病んでるのかはよくわかりませんが、どっちにしろ自分の価値を分かりやすくお金に還元していく行為って、精神的な負担になることが結構あるんじゃないかなと。
風俗嬢が「私はこの人に5万円もらってるから言うことを聞かなきゃいけない」と思うのも病むし、ホストに「この人は私が5万円払ったから一緒にいてくれるんだ」って思うのも病むし。お金に変えられない価値とか、お金とか関係なく好きとか、そういうことに重きが置かれてきたのは、長年の人間の知恵ですよね。

――病みさえしなければ、そういう世界を楽しめそうとつい思ってしまいます…。

たしかに、夜の世界は刺激的で刹那的に幸せでキラキラしてます。それに比べ、昼の世界は退屈ですよね。私だってAV女優もキャバクラもやめて、明日から会社員になるんだって思うと、なんか気分が暗い。笑いが絶えない日常ではなく、満員電車に揺られ大手町に通い、ハゲとおじさんと机を並べたからって一万円のチップをくれるわけでもない世界に私は飛び込んでいくんだ、みたいな(笑)。

――辞めどきが難しそうですね。

そうですね。自分と同い年のAV女優の子や、横浜のキャバクラで一緒だった子もまだ続けています。限界を感じることもあるけど、来月から月収18万で不動産の経理とかやるってなると、踏ん切りがつかないでしょう。「まだ稼いでるから大丈夫」って。

まあ、別に若い時しかやっちゃいけない仕事でもないし、熟女キャバクラもあれば、AVなんて最近30代40代の需要があるので。昼の世界にいると年齢重ねて性的に見られなくなるけど、熟女キャバクラでは性的に見られることが幸福って人も聞いたことがあるので、それぞれがどこに価値を見出すかですね。