憧れの彼は実はデブ専だった…!

 智美の会社にある金曜電話当番制度、略して金番。
花金の夜(死語)の21時までは、必ず誰かが事務所で電話番をしなくてはならないこの悪しき習慣。
デートやら合コンやらの予定があるため、金曜日は一刻も早く帰りたい同僚たちに、毎週これを押し付けられているのは‟人がいい“とされているぽっちゃりキャラの智美。

 が、しかし、皆が嫌がるこの金番、実は智美にとっては何よりも楽しみにしている時間。
というもの、『営業のプリンス』と呼ばれるイケメンエリート社員の黒滝信也が、毎回差し入れを持って訪れてくれるから。憧れの信也と過ごす甘い時間。が、突然、その信也にキスをされて――。

 ゆっくりと机の上に押し倒される。背中に当たった電源を切り損ねたノートパソコンの熱を感じた。だけど自分以外のものを気にすることができたのは、そこまでだった。
 終わらない口づけに、私は嵐に遭遇したボートみたいに翻弄される。高波に飲み込まれないように必死に息を繫いだ。
 なまめいた感触は、唇だけではなく額や瞼、頬、鼻……顔中至る所に降ってきて、涙の跡まで全て食べつくされてしまう。
 黒滝さんは、キスと一緒に「俺を受け入れてくれ」とうわ言のように繰り返した。
 おかしいよ。誰にも受け入れてもらえないのは、私の方なのに。(中略)

「本当に智美は何もわかってないね」
何を? と問いかけそうとした時、突然胸の先端を黒滝さんの指先が弾いた。
「んやぁっ!」
 その途端、今までの電流のような感覚が背筋を通って頭の中まで駆け抜けた。あまりの衝動に、背がまるで弓のようにしなる。
「ほら、身体の方が、正直だ」
(『プリンスは太めがお好き?』P125L13―P140L5)

 まさかのプリンスからの激しい求愛に、戸惑う智美。
そう、実は信也はデブ専趣味を持っていたのです。