「こんなん見たことないわ」な常識破り

ただし、SILK LABOが2年後に発売した『Undress SELECTION case. 1』の特典映像「SELFIE」は、同じくハメ撮り作品ながら、明るさと楽しさに満ちており、女優の福咲れんが一徹を映している時間も長い。おそらく、『Versatile 一徹』「#01」の改善を目指したのだろう。

特に興味深いのは、福咲れんが一徹の横に寝そべり、カメラを持ちながら手淫したときに、画面を覗きこんだ一徹が画面内の自分の姿(図6)に思わず「こんなん見たことないわ」とつぶやくシーンだ。

東大院生のポルノグラフィ研究ノート 服部恵典 東大 院生 東大院生 ポルノグラフィ 研究 (図6)

なぜならこの台詞は、AV(それが女性向けであっても)に女性の視界が現れることの希少性、つまりは眼差しにおけるジェンダー間の不均衡を端的に示すと同時に、その現状を打ち破ろうとするこの作品の価値をも表しているからである。

だが、より注意深く観なければならない。「SELFIE」では、『Versatile 一徹』の場合最初しか用いられていなかった、固定カメラ視点の映像が増えているのだ(図7)。
ハメ撮りを楽しむカップルを隠し撮りするこのカメラは、いったい何者なのか?

東大院生のポルノグラフィ研究ノート 服部恵典 東大 院生 東大院生 ポルノグラフィ 研究 (図7)「Undress SELECTION case. 1」

第三者的視点から「男女」を同時に映す「広がり」の画面構成は、まだなお女性向けAVの特徴であり続けているのである。

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私は異性愛者の男性ながら、大学院で女性向けAVの研究をしている。その研究生活は「こんなん見たことないわ」の連続だ。今回から始まるこの連載では、そんな未知との遭遇に彩られた研究成果の一端をお見せできると思う。

AVは、観るだけでも相当楽しいが、「考える」ともっと楽しい。みなさんが私と一緒に考え、そして楽しんでくれたならば、望外の喜びである。

Text/ 服部恵典

次回は《盗撮カメラとラブラブエッチ――AVを女性向けに編集するとはどういうことか?》です。