まだ何も質問していないのに、隣に座っている大先輩は笑って答えてくれた。頭の中で考えていることがバレているみたいだ。
若い頃は数え切れないセックスと恋を楽しんできた彼だが、さすがに年齢には勝てずにそうした生活からはリタイアしていると教えてくれた。今はストレスの少ない平穏な毎日が何よりの贅沢だそうだ。
それでは、「家族の一員」というのは何を意味するのだろう。急に好奇心が湧いた。

 この築百年の大きな家の中で、彼は20年以上親友の家族と共に生活している。その親友はストレート男性で、パートナーと子供と一緒にここに住んでいる。
静かな暮らしだと想像していたが、普段はきっと驚くほど騒がしいのだろう。彼らはただ単にシェアハウスをしているわけではない。お金を出し合って家を買って、毎日食卓を囲んで、とても近い距離を保ちながら共同生活を送っている。
彼にとって、これは生涯で一番長続きした家族関係だという。そして、これから死ぬまでこの心地いい家庭を維持したいと語ってくれた。

「周りから奇妙な目で見られるときもあるけど、私たちが幸せならそれでいい」

 そう言って、彼は銀色の前髪をかきあげてコーヒーをすすった。そんな自信満々な仕草に少し痺れてしまった。彼に比べればまだまだ青い自分は一体どんな家族を築くのだろう。このインタビューを終えてから、そんなことばかり考えている。

Text/キャシー