「余計な力はいらないよ」

 自転車に初めて乗ったときに誰かがそう教えてくれた。子供だった自分はそんなアドバイスの意味を理解できずに何度も転んだ。子供だったから何度転んでも平気だった。ふと思い出したその言葉を意識して、もう一度タンデム自転車に挑戦してみる。深く考えすぎず、力を抜いて、風を切って前に進むことに集中して自然に体を任せてみた。ぎこちないままだったが、前回より遥かに安定した。不安ばかり感じていたせいですっかり忘れていたが、こうやって二人で一緒にタンデム自転車を漕ぐのは単純に楽しかった。

 オンタリオ湖からの涼しい風を感じながら、広いぶどう畑を自転車で駆け抜けると、オシャレなワイナリーに到着した。髪の毛は汗で濡れて、股間は痺れて、膝は震えていた。深刻な運動不足である。息を切らしたままワイン・テイスティングが始まった。目の前のワイングラスにピンク色のスパーリングワインが注がれると、勢いに任せてゴクリと飲み込んでしまった。シュワシュワした喉越しが最高に気持ち良い。隣を見ると、彼氏のグラスも空になっていた。それに気付いて二人とも笑った。カウンター越しに立っている店員は、きっとワイン・テイスティングを理解していない人たちが来たと軽蔑しているかもしれない。しかし、そんなことはどうでもよかった。

次回は≪親しいからって恋人同士である必要はない≫です。

Text/キャシー