100歳まで生きたい夫
手足が長いカメハメ入院中は、アラサーの女医さんの恋愛相談に乗っていた。
術後の診察中に「子宮をとるのは迷いますよね」「いや、うちは夫婦で子どもは作らないと決めてたんで」「そうなんですか？」という会話から「相談してもいいですか？」と身を乗り出されて
女医「結婚にメリットがあると思えないんです。女の家事育児負担が大きいし、キャリアとの両立も難しいし、それでも結婚した方がいいんですかね？」
アル「まあ誰と結婚するかだよね、結婚はただの箱で中身は50年の共同生活だから」
といつもの話をしていた、股にクスコを突っ込まれた状態で。
その後も、このキュートな女医さんは「体調はどうですか～？」と病室に入ってきては「相談してもいいですか」とサッと身をかがめて
女医「彼氏は無責任に『子ども欲しいな～』とか言うので信用できなくて、隠れてピルを飲んでるんです」
アル「信用できない人と50年一緒に暮らすの？」
といつもの話をしていた、5日間風呂に入ってない状態で。
私は大体いつも同じ話をしているが、ますます確信が深まった。結婚とは50年の共同生活であり、その間には病気になり手術や入院をすることもあるだろう。
術後、風呂にも入れなくて、顔も体もむくんで、身動きもとれなくて、「痛い」しか言えない、そんな時に支えてくれる人、自分も甘えて頼れる人じゃないと結婚は無理だ。
そして「男女は恋愛感情がなくなってからが本番だ」とも思った。もし夫に恋していたら「ブサイクなところを見せたくない」と見舞いも断ったかもしれない。
若い頃の私はブスコンプレックスが強くて、彼氏にすっぴんを見せるのも抵抗があった。だが夫には最初からバンバンすっぴんを見せていた。なぜなら、恋愛感情がなかったからだ。
私は乙女ゲーのシナリオで「ドキドキが止まらない…静まれ、心臓！」みたいなシーンを何万個も書いてきたが、夫に対しては「こんなに心臓が静まりっぱなしで大丈夫か？」と思っていた。
ドキドキしないからこそ、完全に素を出してくつろげたのだ。夫は最初から彼氏というより家族のような存在だった。
陣内と紀香が結婚した時、テレビで陣内が「家でオナラをしないのがルール」と話すのを聞いて、夫は「オナラのできない家は滅びる」と予言していた。
家を滅ぼさないために、私はバンバン屁をこいている。「スカンク！」と言いながら屁をかますと、夫に「スカンクが出しているのは屁じゃない」と言われて「えっ、屁じゃないの？」と驚いた。
夫「スカンクは肛門の脇から強烈な悪臭のする分泌液を噴射する。目に入ると失明するぐらい、殺傷能力の高い武器なのだ」
アル「へ～そうだったのか」
夫「こんなことも知らないなんて大丈夫？」
つい昨日も晩ごはんを食べながら
アル「カメハメは手足が長くて蜘蛛みたい」
夫「蜘蛛よりもモルガヌコドンに似ている」
アル「モルガヌコドンって何？」
夫「三畳紀からジュラ紀にかけて生息した、哺乳類の特徴をもつ絶滅動物。こんなことも知らないなんて…」
アル「いや普通知らんやろ」
という会話を交わした。
その後、夫はテレビで新垣結衣を見ながら「長澤まさみは人気だなあ」と言っていた。
アル「それは新垣結衣、キミは美人の区別がつかないんやな」
夫「新垣結衣と長澤まさみは美人なのか？」
ムスカ以上に目のイカれた夫の前では、すっぴんもバンバン見せられるというものだ。
若い頃の私は「いつ死んでもいい」と投げやりだったが、夫と出会ってからは「なるべく健康で長生きしよう」と思うようになり、検診にもちゃんと行くようになった。
ちなみに夫は人類が火星に行くところを見たいから、100歳まで生きたいらしい。「ふーん、人類ってまだ火星に行ってないのね」と言うと「…………しっかりしろ！！！」と肩を揺さぶられ「しっかりしてる」と答えた。
いつ人類が火星に到着するかは知らないが、その時まで長生きできたら、感極まる夫のとなりで「ふーん」と薄いリアクションをしたいと思う。
Text／アルテイシア
※2017年8月8日に「TOFUFU」で掲載しました。
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