もし終わった不倫を
カミングアウトする場合

聞かされた方は例え相手がパラグアイの天気以下でも不愉快だろうし怒るだろう。

しかし現在進行形ならまだ言うこともあるが、何せ終わっている不倫である。「別れろ!」というのは墓に「死ね!」というレベルの無意味である。

それにもう終わっている不倫を理由に今更「離婚」という一大プロジェクトを立ち上げられるか、というと正直面倒だ。

一応不倫の時効は、不倫されていると「知ってから数年」なので終わった不倫でも法に訴えることは可能である。
しかし訴訟となればかなりの証拠が必要となり、終わった不倫の証拠を集めるのはかなり難しい。

つまり終わった不倫の話を聞かされて、嫌な気分になっただけで終わる可能性が高い。
それならばまだ言わない方がマシなのではないか。

今からサレた側にできることと言えば、今は家庭を持って幸せな元不倫相手の配偶者、そしてその近所に「おたくの奥様、昔うちの夫と御不倫されてたことご存じでしたか?」と教えて差し上げるぐらいのものである。

そう考えると「意外とやれることはある」
このように、不倫とはその時上手く精算できても、自分が絶頂の時に「待ってたぜこの瞬間をよお!」と出てきて、幸せをツルハシで粉砕しはじめるので、先々のことを考える知能があるならやらない方がいい。

結局、カミングアウトというのは「言ってすっきりしたい」という言う側のお気持ちの問題であり、相手にとってはメリットがない、むしろショックを受けるなどマイナスなことの方が多いので、言ったところで今更なことは言わないままで良いのではないか。

ただ、言わないこと自体が裏切り、言わないことで与える相手へのマイナスが加速する場合は「今更共同貯金をFXで全部溶かしたことなんか言っても仕方ない」
などと思わず言った方が良いだろう。

そういう意味での夫に今更言えないことは特にない。

しかし、相手に対する秘密や嘘というのは、相手のこちらに対する興味に比例するような気がする。

もし夫が私に興味があったら「今日一日何をやっていたか」など聞いてくるはずである。
そう聞かれたら「ウマ娘やって寝てた」とは言いづらい、よって「仕事」など「嘘」をつくことになり、本当はウマ娘やって寝てた、というのは「今更言い出せないこと」になってしまう。

しかし、聞かれなければ、隠すことも嘘をつく必要もないのである。

つまり私が嘘や隠し事をせずに生きていけるのは夫が私に興味がないおかげである。

これからも、私のマグカップについて「それ結局誰なの?」とは聞いてこない人であってほしい。

Text/カレー沢薫