「仲直り」はさらに滅多にしない

よって我々夫婦も滅多にケンカをしない。
元々、夫に対して怒るようなことがあまりないし、夫もすでに怒るより我慢した方が楽の域に達してしまっているように感じる。

また、あまりケンカをしないのは「お互い100%勝てる時にしか仕掛けない」せいもあると思う。
相手が一方的に悪い時だけ怒るため、相手は謝ることしかできず、違う意味での秒殺が起こるため、ケンカにすら発展しないのである。

つまり、仲直り以前にケンカを起こさないコツは、怒る前に「正義は我にあるのか」何回も確認することである。

夫婦間だけでなく、担当のミスを鬼詰めする時は何回もメールを読み返し、時にはネット上の人に「これは怒っていいやつか?」と聞いて「GO」が出た時だけ「待ってたぜ!この瞬間をよお!」と、鉄パイプを持って担当の元に出発(デッパツ)する。

もしこちらにも過失があれば、反撃を受け余計面倒なことになったりするし、よくよく考えたらこっちの方が悪かった、となったら最悪である。

よって怒る前にかならず10:0かを確認し、その結果「こっちも悪かったな」もしくは「こっちが0だった」と判明し「怒らなくて良かった」となるケースの方が多い。

それでもケンカになってしまった場合の「仲直り」の仕方だが、ケンカも滅多にしないが「仲直り」も滅多にしない。
個人差もあると思うが、つきあいが長くなると、ケンカも面倒だが「エモいこと」の方がもっと面倒なのだ。
「仲直り」というエモーショナルな行為にもはや精神が耐えきれそうにない。
ケンカで体力と時間を消耗し、さらにエモいと来たらもう実家に帰るしかない、よってケンカは「怒っている方の怒りが鎮まる」という形で終わることがほとんどだ。

怒りというのは感情の中でもっとも体力と精神力を使うため、持続が難しく、犯罪被害者でさえ、長く辛い裁判の中で怒りをずっと持続させるのは難しいそうだ。

犯罪に対する怒りですらそうなのだから「便所を流せ」程度のことで、いつまでも怒っていられず、むしろそんなことで血相を変えて怒っていた自分が恥ずかしくなり、なかったことにしたくなる場合も多い。
よって明確な仲直りの言葉はもちろん、キッスもなく「一晩経ったら元に戻っている」ということの方が多く、熟練になると、不倫などシャレにならないいざこざすら、大した決着もなく時間経過とともに、なかったことになる場合もあるらしい。

逆にいえば、いつまでもエモくありたい相手とは結婚しない方がいいのかもしれない。

Text/カレー沢薫

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