18年後、アケミさんと再会し…

それから18年後、僕は同じ会社の営業として芸能事務所にイベントの打ち合わせのために行った。エレベーターに乗ったらどこかで見たことのある人がいた。互いに「あーっ!」「あれーっ!」と指をさし合った。なんと、アケミさんだった。

18年間、1度も会うことはなかったのだが、顔は2人とも覚えていたのだ。打ち合わせまでは時間があったので、アケミさんと改めて名刺交換をすべく彼女の部署へ。この頃はマネージャーは辞め、総務関連の課長をやっているのだという。僕は40歳になっていて、彼女は51歳だと言った。あのときの美しさはそのままだった。

名刺交換をした後、僕は「いやはや、あのときは……」と言ったうえで「驚きましたよ」と言おうとしたのだが、「驚きましたよ」と言う前に彼女は「それ以上は言わないで!」と言った。

「分かりました」と僕は言い、アケミさんは「いやぁ、あのね、いや、なんというか、ニノミヤさんも立派になられて……」と歯切れが悪い。そして「昔は色々ありましたね……。私もすっかり落ち着きました」となり、お互い核心については触れなかった。そりゃそうだ、周囲に彼女の部下がいるのだし。

以後、この芸能事務所に行くと時々彼女とエレベーターで会うようになった。その度に我々は若干恥ずかしそうに「こんにちは」「お元気ですか?」と挨拶をする関係性になった。そして、一度だけサシで飲んだが、そのときも18年前のあの話については結局できなかった。とはいっても新入社員としての配属2日目のあの仰天の出来事は僕にとって「何が来ても動じない」というきっかけとなった体験だったのでは、とアケミさんと居酒屋のスタッフには感謝している。

Text/中川淳一郎