あわや不倫!?の淡い恋

もう一つ特に印象的なのは『説得』を選んだ高校教師・プルーディーのエピソードです。
クラシックなお洋服に身を包むボブヘアのエミリー・ブラントがとってもかわいい。
プルーディーは既婚者ですが、フランス旅行を夢見る文学的でナイーヴな彼女に対し、バスケに夢中で大雑把な夫。些細なことですれ違い、話をすれば溝が深まる。愛し合っていたはずなのに、心が通わない。それこそ読書体験をシェアするなんて夢のまた夢です。

そんな彼女の心をかき乱す存在がハンサムな教え子のトレイ。チャラそうに見えて文学を解する演劇少年でもある彼は、プルーディーの話によく耳を傾け想いを汲み取ってくれる。強烈に惹かれるプルーディーは、読書会帰りに危うい予感を吐露し、潤んだ瞳でこう言います。

「彼に見つめられると…スプーンにすくわれるアイスクリームみたいな気持ちになるの」

わー!わかるよ!わかるけど、まずい!! こんなにまずいことがわかる台詞、なかなかないです。
わかるよ…スプーンですくわれたくなることは誰にでもあります……知りませんが……。

果たしてプルーディーが本当に「シェア」したいものとは? 彼女の物語も着地点でじんわりとしたものを心に残してくれるので、続きはぜひ本編を観てみてください。
歳を重ねたり、状況が変わってたり、触れる度に新しいことを感じるような作品です。

オースティン作品はもっと楽しめる!

もしジェーン・オースティンにも興味が出てきちゃったな!って場合は U-NEXTさんでも観られる映像化作品が色々とあります。

なんといっても一番メジャーで何度も映像化された『高慢と偏見』。
財産もなく5人姉妹を抱えて結婚を大いに当てにしているベネット家にあって、勝ち気で才気煥発なエリザベスは実のない結婚など断固拒否。裕福なダーシーと知り合うもその高慢ぶりに第一印象は最悪でしたが……。
どうですか。ことラブストーリーにおいてオースティン以前以後と言われるくらい影響力の大きい作家なのがお分かりいただけるでしょう。ド王道です。

2005年版の映画は『プライドと偏見』というタイトルでした。
こちらはとにかくキーラ・ナイトレイが演じるエリザベスがとても生き生きとして魅力的で、原作を先に読んでいてもなお「ああ、エリザベスってこんな女の子だったのか。」と思わされるようなハマりっぷり。
映像も隅々まで美しいこと。好きなシーンがいくつも出てくる映画です。
いつ「自分、不器用ですから…」と言い出してもおかしくないダーシーさんも大好きです。

それから、前述の『エマ』をBBCがミニシリーズにしたのが『エマ~恋するキューピッド~』。 エマはのどかな郊外で何不自由なく暮らすご令嬢。超がつくほど過保護な父親のために故郷を離れられない彼女にとっては、お似合いの男女の仲を取り持つことが何よりの娯楽です。ときどき暴走しては年上の幼なじみナイトリー氏に窘められていましたが、自分に向く矢印と自分から出てる矢印にだけは疎いせいで、人間関係がこんがらがってしまう……というお話。
こちらもストーリーとしては王道、全4話でたっぷりとオースティンワールドを楽しめ、キャストも演技派揃いであっという間に観れてしまいます。

エマは本当に困った性格をしていて、オースティンにも「私以外誰にも好かれない主人公」と言わしめたそうですが、でもかわいいんだよな、そこもタチが悪いんだけど……。
ナイトリー氏の海よりデカい包容力もたまりません。

多様性の時代…だからこそ

多様性とガールズ・エンパワメントのこの時代、オースティン作品の世界観は流石に古くなっていると思います。それでも私たちが惹かれてやまないのはそれが戻りたい「古き良き時代」だからなんかじゃない(勿論その時代の良さもありますけれど)。

男も女も今よりずっと窮屈だった時代、身分や性別で人生が制限され、愛しあう人々が結ばれることすら容易ではなかった時代に、それでも全力で生きている人間を描いているからです。
今もまだ手放しでいい時代なんて言えるときではないから、砂漠で花が咲いているのを見つけたような嬉しさを、何度でも感じたいな。