「結婚おめでとう!」に納得がいかない

そもそも私の結婚に対する感情は無である。子供の頃から将来の夢に「お嫁さん♡」とか書く同級生の意味がわからなかった。いちおう女子あるある漫画を描くのを仕事にしているので「もうアラサーなんだから早く結婚しなきゃ!!」みたいな気持ちを私も理解しているフリをしていたがそんなことは全然思ってないことがバレていないか不安だった。だって結婚したところでせいぜい戸籍に家族として載るメンバーが変わるだけじゃん? それの何が楽しいわけ?

だから「結婚おめでとう!」というセリフにも納得がいかない。区役所に行って書類を出すという工程は同じなのに、私が区役所に行ってマイナンバーカードを申請したところで誰も「おめでとう!」なんて言ってくれなかったくせに。
「幸せになってくださいね!」とかやたら幸不幸について言及されるのもキモい。なぜ女が結婚すると人生の幸せ総決算みたいになるんだ。渋谷区役所に行くよりもタカノフルーツパーラーに行くほうが私は断然ハッピーになるのだけど。

そういうわけで私にとって結婚することは転居届的な役所の手続きのうちのひとつでしかないので、そこに「運命の人♡」とか「愛♡」みたいな味付けをされると途端にオエーッとなってしまう。

労働の対価として給料をもらうぶんには問題ないが、そこに「やりがい☆」とか「みんな仲良くアットホームな職場です☆」みたいな味付けをされると途端にオエーッとなる感じと似ている。

かといってだから私は絶対に結婚しないという強い信念があるわけでもない。紀州のドンファン的な、資産があって死期が近い男にプロポーズされたら当たり前のことだが即結婚する。amazonからの宅配便に受領サインを入れるのと同じノリで婚姻届に名前を書く。

逆に言えば、金の話が絡まないのであれば私は自分が誰と結婚してようがしてなかろうがマジでどうでもいいのだ。

国と裁判か区役所に行くか

そんなどうでもいいことのために苗字を変えて銀行口座とか保険証とかすべての名義を変更する手続きが発生するのはめんどくさすぎるので結婚したくないんだよ、とチャラヒゲに伝えたところ「僕が苗字変えるよ!」と元気よく言われたので、私は結婚を断るための唯一真っ当な口実を失ってしまってちょっと焦った。

その後は「婚姻届を区役所に提出しにいくのがダルい」という我ながら説得力に欠ける言い訳でごまかしつつ妊活を始めたものの、子供が産まれたらチャラヒゲが育休とって私は早めに仕事復帰しようね的な育児計画を立てる段階になってから、男の育児休業給付金の支給対象とされるのは「配偶者の出産日当日から子が1歳となった日の前日まで」ということを知った。「配偶者」の出産が男の育休の条件なのだ。

「なんで結婚してないと育休がとれねーんだよ!! 訴えるぞ!!」と一瞬キレたものの、国を相手どって裁判するよりかは区役所に行って書類を提出するほうがまだめんどくさくないことに気付いてしぶしぶ籍を入れたというのがことの顛末でして、なので私が結婚とかいうやつをしたことについては「おめでとう!」ではなく「お疲れさま!」程度のリアクションのほうが適しているのです。

Text&Illustration/峰なゆか