ルディ、ポール、マルコの愛は世界を変えられるのか?

 マルコにとってルディとポールは母親と父親です。どちらが母か父かは観る人の感性に委ねるとしまして…。
シンガーと弁護士という豪華な“両親”と出会ったマルコ。彼が失われた愛を取り戻していく日々はあまりにも美しい。愛して止まないチョコレートドーナツも、笑い声も、すべてが愛おしい。
そこに幸せな将来が待ち構えている事しか想像できない分、厳しい現実が忍び寄ることへの悲しさが増大する。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと トラヴィス・ファイン アラン・カミング ギャレット・ディラハント アイザック・レイバ フランシス・フィッシャー グレッグ・ヘンリー ビターズ・エンド ANY DAY NOW ゲイ ボブ・ディラン 愛 法律 偏見 正義 知的障害 裁判 2012 FAMLEEFILM, LLC

 これは人としての正義と、法としての正義の戦いです。
ルディとポールは、マルコにとって幸せな人生を願うだけ。それなのにゲイであること、血が繋がっていないことがマルコの輝かしい将来を掻き消す。
揚げ足を取るような裁判。私たちは傍聴席でただ聞き入ることしかできないし、ルディの落胆した背中を見つめることしかできない。

「法律を学び、世界を変えようとこの街へ来た」というポールが皮肉にも、世界に運命を変えられる現実。
この愛の行く末を、どう受け止めればいいのでしょうか。

観る者の心の奥底に潜む偏見をあぶり出し、それをあっけなく変えてしまう

 終盤、ルディの歌唱シーンは魂を揺さぶる。もはや泣かずにはいられない。
でも正直、ルディの印象が最初と全然違う。
だって、登場した時はいきなり顔が濃くて脇毛ボーボーで女装しているんだもの。偏見云々関係なく、ビジュアルインパクトでまず「うわっ……」と思ってしまう。
でも、彼がいかに自分の人生に誇りを持ち、愛すべき人を愛しているかを知っていくと、「ありだわ……」と気持ちが変化していく。

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 これは映画で描かれる“世間”の目と同じなのかもしれない。
世間はルディとポールが戦った裁判をしらない。新聞の小さな片隅で描かれる事件なんて流し読みする。興味がなければ、映画のように彼らの内面を探っていかない。

 最初は若干の嫌悪すら抱いていたのに、最後は愛に満ち溢れている。
この変化こそが映画の為せる技であり、特権でしょう。映画で描かれることで初めて、その愛を感じ取れる。そして心の奥底に潜む偏見にハッと気付かされるのです。

 観終わった後、ボブ・ディランの名曲『I Shall Be Released』が耳に残り続ける。精神の自由を歌った曲が流れると同時に、映画の冒頭で街を一人彷徨うマルコの姿が思い浮かんでしまいます。