児童養護施設に入れられた9才の少女は
飛べない鳥を見て何を想うのか『冬の小鳥』

 次に紹介するのは、ウニー・ルコント監督が養女として過ごした幼少期の体験を基にした韓国映画『冬の小鳥』。
『オアシス』『シークレット・サンシャイン』のイ・チャンドン監督がプロデュースしたことでも話題になった、孤独な少女が頑張るお話です。

マイマイ新子と千年の魔法 冬の小鳥 ロッタちゃん はじめてのおつかい たけうちんぐ 映画 2009 DCG Plus & NOW Films, GLORIA Films. All Rights Reserved.

ストーリー

 1975年のソウル。9才のジニ(キム・セロン)は大好きな父親に連れられて、高い鉄格子に囲まれた施設に入る。状況が理解できないまま、ジニは父親が去っていく姿を見てしまう。やがてここが、孤児が集まる児童養護施設であることを知り、絶望する。次々と養女になっていく子どもたち。それでも、ジニはいつか父親が連れて帰ってくることを祈り、待ち続ける――。

死んだ小鳥は少女の気持ちを知っている

マイマイ新子と千年の魔法 冬の小鳥 ロッタちゃん はじめてのおつかい たけうちんぐ 映画 2009 DCG Plus & NOW Films, GLORIA Films. All Rights Reserved.

 孤児として育っていく悲しい物語で、描かれるエピソードの一つ一つが切ない。それなのに、見終わった後には妙な爽快感すら味わってしまいます。

「いつかお父さんが来てくれる」

 これがジニの生きるための唯一の希望。どんなに辛くても希望さえあれば頑張れる。そんなジニがどうして鳥を拾い、死ぬまで介抱しようとしたのか。そして、まるで鏡を見つめるように、なぜ鳥に感情移入してしまったのでしょう。

 死んだ鳥と同じように土の中に入り、自ら土に覆いかぶさるシーンがある。それは「死にたい」とはまた別の意識のように思える。少女はもはや自分が死んでいることを自覚している。父親に見捨てられた以上、ジニはジニじゃない。それを自覚してしまった彼女の死より深い死。
それでも、土は苦しい。すぐに土の中から出ていく滑稽さが辛い。子ども特有の感性だからこそ、余計に心を打たれてしまいます。

少女の笑顔に、素直に喜んでいいのだろうか

マイマイ新子と千年の魔法 冬の小鳥 ロッタちゃん はじめてのおつかい たけうちんぐ 映画 2009 DCG Plus & NOW Films, GLORIA Films. All Rights Reserved.

 養護施設に入る直前まで、ジニは父親の隣で満面の笑みを浮かべていた。
父親に歌を歌ってあげたり、父親の背中で目を閉じたり、様々な表情を見せていた。つまり、“子ども”をしていた。だけど、施設に入ってからはほぼ無表情。笑わなくなった。“子ども”をやめてしまったのです。
それでも、9才は子ども。簡単にはやめられない。その苦しさが、ジニの終始一貫する表情に込められているように思えます。

 外国人の養女になっていく子どもたちに手を振るたびに、ジニは何を思ったのか。その先に幸せが待っているかは分からない。でも、幸せそうに去っていく仲間たち。
子どもは、子どもをやらなきゃならない。嘘でもいいから、幸せにならなきゃならない。

 終盤、ついにジニの笑顔が戻る瞬間がある。その瞬間、まるで自分がこの子の親になったかのような幸福感に包まれてしまう。しかし、それは素直に喜べるものかは分からない。
「父親はもう帰ってこない」という事実を完全に受け入れたからこそ、ジニは笑う。その力強さはハッピーエンド一色に収まらず、その先の未来、ジニの葛藤すら想像する。
彼女の幸せを願うことこそが、大人の役割なのでしょう。その笑顔が、嘘でないことを祈りたいです。

マイマイ新子と千年の魔法 冬の小鳥 ロッタちゃん はじめてのおつかい たけうちんぐ 映画

『冬の小鳥』DVD
価格:3,990円(税込)
価格:3,990円(税込)
発売元:IMAGICA TV
販売元:紀伊國屋書店