驚異的な手作り感には“温もり”がある

ウェス・アンダーソン監督映画『犬ヶ島』の黒い犬を子どもが抱きしめるシーン 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

 犬のインフルエンザこと“ドッグ病”が蔓延し、犬から人間への感染が恐れられている未来というディストピアな設定。その絶望感とは裏腹のシュールで笑いを誘う会話劇。シリアスからユーモア、生々しい人間模様から奇想天外な展開。様々な振り幅に溢れ、その情報量の多さに心地よい疲労感に満たされる。

 猫好きも犬派にドッと流れていくような、理路整然と会話をしながらも犬の習性に従うしかないキャラクターたちが愛くるしい。動物たちの純粋さが生き生きしていて、その声をエドワード・ノートン、ジェフ・ゴールドブラム、スカーレット・ヨハンソンなどハリウッドを代表する俳優たちが担当するという大胆な遊び心に酔いしれる。

 ストップモーションアニメの常識を打ち破るのは、1フレームごとのその驚異的な情報量。犬たちの生々しい毛並や、人たちの血の通ったような表情など、あくまで感情表現として細部にまで行き渡ったこだわりが見える。作られた人形の数はなんと1,097体で、全部で144,000の静止画で構成されているという。そこに“温もり”が確かにあり、絵やVFXだけでは表現しきれない手作り感が病み付きになる。

 日本文化のリスペクトでいうと、最近ではガンダムやストリートファイターなど日本発のキャラクターが多数登場する『レディ・プレイヤー1』が記憶に新しい。しかし、本作は全く別のアプローチで日本を描いている。それどころではなく、精巧にデザインされた新たな要素を加え、全く新しい日本像を生み出してしまった。
古き良き日本文化を愛する人、そして犬好きの人は絶対に見逃してはなりません。

ストーリー

 今から20年後の未来の日本。両親を事故で亡くした少年・アタリ(声:ランキン・こうゆう)は、「犬インフルエンザ」の蔓延により“犬ヶ島”に隔離された愛犬・スポッツ(声:リーブ・シュレイバー)を救うために、たった一人で小型機を盗んで離島に乗り込む。

 アタリは犬ヶ島で5匹の犬たちに出会う。かつては快適な家の中で飼われていたレックス(声:エドワード・ノートン)、ドッグフードのCMに出演していたキング(声:ボブ・バラバン)、高校野球のチームのマスコットだったボス(声:ビル・マーレイ)、健康管理に気を遣ってくれる飼い主の愛犬だったデューク(声:ジェフ・ゴールドブラム)、そんな元ペットとは違ってノラ犬だったチーフ(声:ブライアン・クランストン)と心を通わせながら、アタリは冒険に繰り出す。

5月25日(金)、全国ロードショー

監督・脚本:ウェス・アンダーソン
キャスト(声):ブライアン・クランストン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、エドワード・ノートン、ハーヴェイ・カイテル、スカーレット・ヨハンソン、ティルダ・スウィントン、野村訓市、野田洋次郎、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリ、ヨーコ・オノ
配給:20世紀フォックス映画
原題:ISLE OF DOGS/2018年/アメリカ映画/101分
URL:『犬ヶ島』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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