「心も身体も一度しか手に入らない」

「君の名前で僕を呼んで」宣伝画像③ Frenesy, La Cinefacture

 本作をより美しいものにしているのは、エリオの感受性豊かな趣味だ。ピアノやギターで音楽の編曲をし、そのメロディが物語に乗ることで17歳の性欲も衝動も上品な色に昇華されている。楽しい時は軽快に、寂しい時はどんよりと。映像も音楽もエリオから眺める世界なのだろう。

 青春は美しくもあり、残酷でもある。もう二度と帰って来ない日々を懐かしくも、恨めしくも感じることがある。エリオもまた、オリヴァーがいずれ避暑地を去ることを知りながら、彼と身を寄せ合う。

「心も身体も一度しか手に入らない」

 エリオの父が彼へ放った言葉が胸に残る。その心も身体も何のために在るのか、いくら悲しみに打ちひしがれてもその二つが離れ離れにならないよう繫ぎ止める必要がある。たとえ目的を果たせなくても、一度しか味わえないこの心と身体を、せっかくの人生なのだから思い通りに動かしたいものだ。

 二人の恋を取り巻く世界がとにかく優しい。
エリオが飛び込んだ川の波紋、オリヴァーのそばの木々のせせらぎ、二人が座り込む深緑の草原。
そのすべてが温かく北イタリアでの青春を包み込む様に、静かな余韻を味わえるだろう。

ストーリー

  1983年、夏。家族とともに北イタリアの避暑地で日々を過ごすエリオ(ティモシー・シャラメット)は、大学教授の父が招いた24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)と出会う。

 自信と知性に溢れたオリヴァーに最初は距離を置くも、ともに田舎町を自転車で走ったり、川で泳いだり、音楽を聴いたりする中で、次第に恋心が芽生えていく。

 躊躇いながらも、その想いがやがてオリヴァーに届き、二人は愛し合うことに。しかし、夏の終わりが近づき、オリヴァーが避暑地を去る日が迫ってくる――。

4月27日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

監督:ルカ・グァダニーノ
キャスト:ティモシー・シャラメット、アーミー・ハマー、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール、エステール・ガレル
配給:ファントム・フィルム
原題:CALL ME BY YOUR NAME/2017年/イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ映画/132分
URL:『君の名前で僕を呼んで』公式サイト

Text/たけうちんぐ

次回は <「いつまでも夢を見させてくれてありがとう」そんな気持ちになれるスピルバーグの新作『レディ・プレイヤー1』>です。
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