千年生き続ける短歌と“一瞬”を積み重ねる千早たちの日々

『ちはやふる -結び-』の千早役広瀬すずと新役新田真剣佑画像 2018 映画「ちはやふる」製作委員会 末次由紀/講談社

 ハイスピードカメラで撮られた1/1000秒のスローモーション。そして、岩を打ち砕くような床を叩く効果音。この二つが組み合わさることで競技かるたのシーンがどんなスポ根映画にも負けない肉弾戦で、アクション映画さながらの迫力を味わえる。
実写化の意味はここにあるだろう。キャストたちの猛特訓の成果が風を切るように取り札をはじく動きに表れ、大会のシーンはしばらく興奮が抜けず手に汗が溜まる。
その一方で、古典をこよなく愛するかるた部の部員・奏が短歌の意味を千早たちの恋愛模様に見出し、文化としてのかるたの繊細な魅力を知ることができる。

「しのぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで」

 千年前でも人々は誰かに想いを募らせ、それを口に出さなくても誰かにその想いが伝わることを歌にしていた。
生きている以上すべての取り札を勝ち取りたいもの。だけど、勝つことがすべてじゃない。千早は読み札を瞬時に判断するために耳を研ぎ澄ます。すると敗者の声が聞こえてくる。泣きながら顧問の先生に擦り寄る部員たちを脇目に、太一の「青春全部かけても、悔しさしか残らなかったら?」の返答が突き刺さる。だけど、そんな後悔も不安もすべてを押しのけるクライマックスにある。
高校生活すべてを賭けた決勝戦。そこでは勝敗は関係なく、自分自身の人生と向き合うことの美しさが詰まっている。これはかるたに限らず、すべての“一瞬”を積み重ねる青春に捧げられている。

 千年も時を越えて、恋の短歌が千早たちに降り注ぐ。今現代で生まれる一瞬の輝きもいつか、千年先の未来でも生き続けるだろうか。
千早と奏が二人が初めて出会った屋上で、そんな不確かな未来へと想いを馳せる。
運命というものは、その手ではじくことで変えられるかも知れない。それは何も高校生に限らず、いつだって遅くはないことを千早たちの戦う姿が示してくれる。

ストーリー

千早(広瀬すず)と詩暢(松岡茉優)が全国大会で壮絶な戦いを繰り広げてから2年が経ち、高校3年生に進級した千早たちは高校生活最後の全国大会に向けて、瑞沢かるた部の気持ちを一つにして日々特訓を重ねる。
千早と太一(野村周平)の情熱に触れ、自らも高校でかるた部を作って全国大会に挑む新(新田真剣佑)。そんな彼の千早への想いを知った太一は、ある日突然かるた部を辞めてしまう――。

3月17日(土)、全国公開

監督・脚本:小泉徳宏
キャスト:広瀬すず、野村周平、新田真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬、森永悠希、松岡茉優、賀来賢人 他
原作:末次由紀『ちはやふる』(講談社『BE・LOVE』連載)
配給:東宝
2018年/日本映画/127分
URL:『ちはやふる -結び-』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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