元恋人のことが忘れられない

「火花」宣伝画像③ 魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会

 せいいちがいながら、元恋人のハギオ(オダギリジョー)にのめり込んでいくツチダ。
「今の自分ならやり直せるかも」と成長した自分で挑むかのように、ツチダはハギオに身を委ねてしまう。それでも結局気持ちが変わらないことで、それを隠せない自分がまるで成長していないことに気付く。
せいいちと別れたいわけでもなく、自暴自棄でもない。ただ、まるで過去の自分を肯定するようにハギオを愛してしまい、背徳感に塗れる姿に胸が詰まる。

 汗ばんだ肌や、床を擦る足音。乱れた髪の毛や、ペットボトルが倒れる音。視覚的にも聴覚的にも、二人の生活が生々しく切り取られる。そこで臼田あさ美と太賀の体現力に目を奪われる。まるで二人が何年も生活を共にしていたかのように、同棲している様に年季を感じる。

 人は一人では生きられない。それを10年間駆け抜けても全く芽が出なかった者たちの、“真の栄誉”を通して描かれる。
売れることが一番であっても、それが全てではない。栄光の陰で人知れず確かに輝き、その光はきっと死ぬまで絶えないことを物語っている。

 せいいちとハギオの二人を愛し、名前の付かない感情だけが一人歩きする。ツチダはその中で何を大事にしていたか、何を想っていたか。その答えがふと現れた時、大粒の涙が溢れる。
 
 恋愛漫画の映画化が後を絶たない。煌びやかな10代のロマンスや、付き合うまでがゴールの物語が蔓延る中、そんなありふれた恋愛映画の先を描くツチダとせいいちの生活は一際目立つ。
これこそ恋愛を夢見る10代に観てもらいたい。誰かを愛するだけで終わりではなく、その先にあるものを知るために。

ストーリー

 ツチダ(臼田あさ美)は、同棲しているミュージシャンを目指すせいいち(太賀)のために、キャバクラで働いて生活を支える。一方、せいいちは曲が書けずに仕事もせず自堕落的な日々を送っていた。だが、ツチダがキャバクラの客と愛人関係になり、生活費を稼いでいたことを知ったせいいちは真面目に働き出す。
そんな中、ツチダは元恋人のハギオ(オダギリジョー)と再会することで、彼との関係にのめり込んでいく。

11月11日(土)、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

監督・脚本:冨永昌敬
原作:魚喃キリコ『南瓜とマヨネーズ』(祥伝社フィールコミックス)
キャスト:臼田あさ美、太賀
配給:S・D・P
2017年/日本映画/93分
URL:『南瓜とマヨネーズ』公式サイト

Text/たけうちんぐ

次回は<星を越えた恋愛×パンクロックが常識をぶち壊す『パーティで女の子に話しかけるには』>です。
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