概念を奪うことで「常識」を今一度考える

映画『散歩する侵略者』のキャプション画像3 2017『散歩する侵略者』製作委員会

 人間なら誰もが常識として抱いている「家族」「仕事」「愛」といった概念を奪われることは、その人の存在意義を脅かすかのようだ。
ただ、一方で概念を失った者が流す一筋の涙。悲しいのか切ないのか、それとも嬉しいのか。その感情を具体的に描かないことで、本作から提示するテーマが浮かび上がる。

 頭の中から概念がなくなり、社会性を失うことで、人間としてありのままの姿に戻るのかも知れない。そこで本来の幸せを得る者だっているだろう。
「家族は仲良くあるべき」「汗水流して働くべき」などと、数多くの概念に囚われた現代に生きる我々に対し、侵略者は淡々と問答してくる。

 それは本当に幸せなのか? そのままでいいのか?
当たり前として抱く常識は、「常識」とカギカッコで強調されるほど威力がある。それはスクリーンの枠を飛び越えて客席を取り囲み、人間社会までもを覆い尽くすかのようだ。

 これは単なるサスペンス映画に留まらない。真治と鳴海がやがて辿り着くある“概念”の境地が涙を誘う。
本作は人間が人間らしく生きるために、今一度考える余地をもたせるヒューマンドラマでもある。

ストーリー

 鳴海(長澤まさみ)の夫・真治(松田龍平)が数日間行方不明になり、ある日別人のようになって帰ってくる。
真治は「地球を侵略しに来た」と告白し、鳴海はこれまでの態度が様変わりした夫の様子に戸惑い続ける。

 一方、町ではある一家の惨殺事件が起きる。様々な奇怪な出来事が生まれ、ジャーナリストの桜井(長谷川博己)がその真相を追う最中、自らを“侵略者”と名乗る天野(高杉真宙)と立花(恒松祐里)と出会う。

 人間の概念を奪い続ける“侵略者”の目的と実態から、驚くべき真実に直面する――。

9月9日(土)全国ロードショー

監督:黒沢清
キャスト:長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、前田敦子、満島真之介、児嶋一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史、長谷川博己
配給:松竹/日活
2017年/日本映画/129分
URL:『散歩する侵略者』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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