SMは“解放”の象徴

 当然ではあるけど、ただセックスを続けるだけでは映画にならない。二人の恋路を邪魔する足枷がたくさん用意されることで、一つ一つの性愛がドラマチックに仕立てられる。幽霊のようにいつの間にか背後に佇みがちなストーカー女、ブルーアイからすでに怪しさが漂う上司の男、グレイをSMの世界へと引きずり込んだビジネスパートナーなど、新キャラが続々と登場する。

 恋愛感情はマフィア映画のように、次から次へと成功者に対する憎悪を生む。誰かの歓びが誰かの悲しみに変わるのは、恋愛をする誰しもが頭を抱える問題だ。
本作もまたアナとグレイに忍び寄る陰が、愛に飢えた感情そのもの。縛られ、嵌められ、身動きが取れないプレイとともに、命の危険にすら晒される二人がたどり着くSMの境地がそこに描かれている。

 誰もが秘密を一つか二つ抱えている。その開かずの扉を閉じたまま、欲望を抑え込んでしまい、恋人にも結婚相手にも不満を覚えていく。
本作が魅せる官能シーンの数々はただのエロに収まらず、“解放”の象徴だ。SMプレイに欠かせない手錠もまた、抑制のメタファーであるかのように。その鍵はコトが終わると必ず解かれるのだ。

 彼らが欲を満たすのはお金でもご飯でもない。それでも手に入らないモノとは何か。と、普遍的なメッセージを投げかけてくる。

 ただのエロい映画と敬遠するのはもったいない。いや、むしろエロい映画なんて滅多に公開されないので、今のうちに劇場で体感してほしい。
知られざる性癖はまた、パートナーへの知られざる性衝動を生み出すかも知れない。

ストーリー

 恋愛初心者の大学生・アナスタシア(ダコタ・ジョンソン)は、かつての恋人・グレイ(ジェイミー・ドーナン)の特殊な愛の形に応えることができずに彼の前から去った。
その後、大学を卒業したアナは出版社で働き始め、グレイは別れた後もアナへの感情が収まらず復縁を求める。そこでアナはグレイにある条件を提示し、再び二人はSMの世界へと潜り込む――。

6月23日(金)、全国ロードショー

監督:ジェームズ・フォーリー
キャスト:ダコタ・ジョンソン、ジェイミー・ドーナン、リタ・オラ、キム・ベイシンガー、マーシャ・ゲイ・ハーデン
配給:東宝東和
原題:Fifty Shades Darker/2017年/アメリカ映画/118分
URL:『フィフティ・シェイズ・ダーカー』公式サイト

Text/たけうちんぐ