サスペンス×ファンタジーの異質な組み合わせ

たけうちんぐ 映画 リザとキツネと恋する死者たち Péter Szatmári

 那須と見られる自然の景色(が、明らかに日本でロケしてない)や、そこに降り立つ舞妓さんの格好をしたリザ(日本語があまり上手くなくてちょっと可愛い)。黒澤明監督の映画や芥川龍之介の小説など日本文化に親しんできたというウッイ監督。いくら日本好きとはいえ海外の作品によくある“ズレた日本像”が満載で、日本人には逆に新鮮で笑える。

 ハンガリーの俳優ですら大事なシーンで突然日本語を話し始める。トミー谷の笑顔と同じくらい鬱陶しい監督の日本愛は、なんとゾルタン刑事の後頭部の血の跡にも反映されている。白いガーゼの中央に丸い形で滲む赤い血。すなわち日の丸。とにかく鬱陶しいです。

 軽快で楽しい雰囲気ながら、人がたくさん死ぬ。誰が殺したのか?の視点で見るとサスペンス調になるが、リザの脳内では常にトミー谷が歌って踊っている。そのギャップが逆に恐ろしくも可愛くも感じ、全く別のジャンルとして楽しめます。
嫉妬に狂う男は怖く、愛をまっすぐに受け入れる男は愛くるしい。トミー谷の正体が明るみになるクライマックスと、彼のカタコトな日本語は必見・必聴です。

 最後に一つ断言できるのは、この映画に似た作品は絶対に存在しない。と、オリジナリティに満ち溢れた作品だけど、これが一応クリスマスシーズンに公開なんだから徹底した異質な存在(作品)。サンタクロースの代わりに、あなたのそばにもトミー谷を。

あらすじ

 1970年代のブダペスト。30歳で独身のリザ(モーニカ・バルシャイ)は日本大使未亡人の看護師として住み込みで働く。彼女にとって心の拠り所は日本の恋愛小説と、自分にしか見えない幽霊の日本人歌手・トミー谷(デビッド・サクライ)だった。
小説のような恋をしようと外の世界に飛び出すと、その隙に何者かによって未亡人が殺されてしまう。やがてリザが恋をする男たちが次々と殺害され“死者”となり、警察は当然のごとく彼女を怪しむ。しかしリザが言うには「これはキツネの呪いです……」と打ち明ける。困惑する警察は刑事・ゾルタンを雇い、下宿人を装ってリザと同居させる。
はたして殺人事件の真犯人と、リザの近くでいつも歌い続けるトミー谷の正体とは?

12月19日(土)より新宿シネマカリテ他にて全国順次公開

監督:ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ
キャスト:モーニカ・ヴァルシャイ、デヴィッド・サクライ
配給:33 BLOCKS
原題:Liza, The Fox-Fairy/2014年/ハンガリー映画/98分
URL:『リザとキツネと恋する死者たち』

Text/たけうちんぐ