無感情を抱く主人公の深い眠り

 眠くなる映画だ。と言うと語弊を生むが、α波のような心地よい眠気が全編を包み込んでいる。それだけ主人公の目線を共有し、彼女の見る“夢”の中へ誘われる。

 まるで寺子の重たい瞼のように、渋谷の街並みも、部屋の中も、どことなく閉塞感が漂っている。目を閉じても岩永の姿が浮かび、不倫という発展のない恋心の切なさが身にしみてくる。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 若木信吾 よしもとばなな 安藤サクラ 谷村美月 井浦新 コピアポア・フィルム 不倫 植物人間 夢 眠り 死 2015よしもとばなな/『白河夜船』製作委員

 何度も身体を重ねる二人。身も心も預けるように岩永を愛する寺子だが、本質的な部分を捧げられていない。誰よりも仲が良いしおりの死が告げられず、何かに取り憑かれたように深い眠りに陥る姿が悲しさも、切なさも、嬉しさも感じない。無感情が彼女をまとっている。そんな空虚な雰囲気が独特でクセになる。

 下着姿で、時折上半身裸で、自然に佇む安藤サクラの演技力を信じきった演出で、思わず「目が離せないのに微睡みたくなる」という不思議な感覚に陥ってしまう。

“夢”から覚めない女の倦怠感とは

 平日の昼間に目覚めてしまった時の後ろめたさにも似た不倫が、誰を傷つけるわけでもなく、心を痛めることでもなく、ただ時間だけを蝕んでいく。寝たきり状態の岩永の妻の身代わりになるように、寺子は深い眠りから覚めない。

“夢”という言葉が二つの意味を抱えるように、寺子は夢の中で岩永との夢を見る。布団の中で恋人からの電話に目覚めるが、まだ“夢の中”にいる。全編ライカカメラで撮影されたという柔らかな映像もあいまって、寺子の倦怠感を観る側も共有する。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 若木信吾 よしもとばなな 安藤サクラ 谷村美月 井浦新 コピアポア・フィルム 不倫 植物人間 夢 眠り 死 GARMATA FILM PRODUCTION LLC, 2014 UKRAINIAN STATE FILM AGENCY, 2014

 なぜ彼女は眠ることを選んだのか?しおりも、岩永の妻も、行方知れずの愛も、解決できない全てから逃れるためだろうか?

 その眠りに薄っすらと“死”が思い浮かぶ。とはいえ絶望には至っていない。そんな柔らかな“自殺”が、彼女の倦怠感を逐一リセットしているかのようです。