悪い人が一人も出てこない、温かい人物描写

 いくら殺伐とした気分でも、この映画を前にするとさっぱり忘れてしまいそう。
小野寺家は独特な時間が流れている。幼少期に唐辛子を食わされたり、ヒーローショーでヒーローの中身を教えられたり、サンタクロースがいないことを告げたり。そんな姉の可愛らしいいたずらをいまだに根に持っている弟のナレーションからはじまるのだから、20数年間、時間がほとんど進んでいない。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 小野寺の弟・小野寺の姉 向井理 片桐はいり ショウゲート 家族 恋愛 奥手 姉 弟 2014 『小野寺の弟・小野寺の姉』製作委員会

 学校の先生の言い間違いをずっと思い出し笑いするくらい、進とより子のほのぼのとした時間が微笑ましい。その空気は周りにいる友人、同僚にも感染し、全編通じて悪い人が一人も出てこない、安心感たっぷりの物語になっている。

 恐らく、進とより子からしたら「仲が良い」って自覚はないんだろう。それこそが仲が良いって思わせるほど、密接な関係がちょっと羨ましい。
しかし、だからこそ新しい人生に踏み込めずにいるのがもどかしい。二人の恋には、二人の関係性が強く影響してくるから。

恋をして始まるものと、変わるものとは?

 二人だけだった家族が、恋をすることで次第に人数を増やしていく。その分、進とより子の間に変化が生まれていく。
進がなぜ過去の恋愛がトラウマになり、今の新しい恋に躊躇しているのか。その謎が解き明かされる後半が、あまりに切実で辛い。

 進にとってより子は姉であり、母みたいもの。同時に、より子にとって進は弟であり、子どもみたいなもの。
たまに立場は逆転するが、二人は切っても切れない関係。ある意味恋より強い。だから恋愛に奥手な二人は求めるべき幸せを掴めないでいる。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 小野寺の弟・小野寺の姉 向井理 片桐はいり ショウゲート 家族 恋愛 奥手 姉 弟 2014 『小野寺の弟・小野寺の姉』製作委員会

 恋をすると人生は始まるが、同時に変わってしまうものがある。
進がより子に秘めた想い、40歳のより子が初めてまともに恋愛をしたその感情が交差する時、物語は劇的に変貌を遂げる。小野寺家の部屋の隅っこに、恋よりも深い愛を見つけてしまうのです。