運が良かったけど、頑張ってはいた

──いつまちゃん先生は、漫画家になるまでに悩んだり、焦ったりした時期はありましたか?

いつま

めちゃくちゃありました。私が美大に入った理由は、勉強が全くできなかったから。少しでもいい学校に入るには、得意な絵で受験を頑張るしかなかったんです。しかも自分を上に見せたいっていう浅ましい承認欲求もありました。そしたら入学後、得意だったはずの絵も周りの方が上手いし、色々と燃え尽きました(笑)。自分が何をしたいのか自分に何が出来るのか、わからない焦りで必死に単位を取っていたら、2 年の前期でほぼすべての単位を取り終えてましたね。

いつまちゃん×大森靖子対談画像
大森

すごーい、優秀!

いつま

でも、4年生で就職活動と卒業制作が同時にきて。卒業制作って表現したいものがない人間にとってはすごい酷な課題なんですよ、ほんと何も出てこないので。その上、就職活動もうまくいかなくて…。面接で「あなたは口八丁手八丁で、言ってることは立派かもしれないけど描いてるものは本当にくだらない。上辺だけで生きてきたから作品が薄っぺらいんじゃないの」とまで言われてしまいました。でもなんで言われたかはわかるんですよね、当時は上辺だけの作品で課題をこなしてきたから。最終的にCGプロダクションから内定をいただいて、さぁ、これから卒制どうしようってところで、彼氏に……。

大森

フラれたの?

いつま

そうなんですよ、もう大打撃でした。でもこの惨めな恋愛経験や就職に落ちまくった経験をエッセイ漫画にしてみたんですよ。「とりあえず卒業さえできれば」「この心の傷さえ楽になれば」と必死で描いて、それをポスター印刷して立体展示しました。評価は B……ってドラマ化したのに!(笑)

大森

おめでとうございます(笑)。ほんと、なんでみんな卒制のときにフラれるんだろう?

いつま

ナーバスになってピリピリしちゃうからですかね。難しい時期ですし。でも私をフった彼らに対して、今となっては年収を超したってことが心の支えになってます(笑)。

──その後一度就職をされたとのことですが、そこから漫画 1 本でやっていくことになったターニングポイントは?

いつま

もともと『来世ではちゃんとします』のスタジオデルタのような小さな映像会社で働いてました。もっと個として活躍してみたかったけど、自分は誰かの表現を(映像会社の社員として)支える側の人間なんだなって。でもどこかで、自分はもっと何かが出来るはずだ! と思い続けていました。ある日ふと、感情を爆発させた卒業制作が「すごく面白いね」って教授以外から評価されてたことを思い出したんです。そこで、仕事の忙しさを言い訳にせず毎日Twitterに四コマ漫画や一言イラストをアップすることにしたんですよね。

──毎日! けっこう地道ですね。

いつま

毎日毎日、すごい意地でしたね。ある日、2、3ヶ月前に投稿した漫画が急にはねたんです。そのおかげで毎日 1,000 人ずつフォロワーが増えた時があって、今の担当さんが、声をかけてくれました。まあ、運が良かったなと思いますけど、頑張ってましたね。