俺の中の女

わたしには最高の彼氏がいるんだけど、ある日、いつも通り彼に今日あったことをペラペラ話していると、突然彼が言ったのだ。

「あ〜それは俺の中の女も怒ってるわ」と。

え…今なんて言った? 「俺の中の女」…ですって? 「俺の中に女がいるの?」と聞くと「いるねぇ」と彼は言った。
その時私が話していたのはいつもの如く、飲み会のクソみたいな愚痴で「あの娘、おじさんのつまんない話はよく聞くし笑うのに、私の話は聞いてくれないのが悔しい。絶対私の話の方がおじさんより面白かった。でも結局、面白い話しようと頑張る私よりも、つまんない話を笑って聞けるあの娘の方が贔屓されるわけでしょ? なんなのその世界! つまんない方が良いの?! やってらんねーよ! 俺の話を聞け〜〜」と、鬼ころし片手にまくし立てていた。すると帰ってきたのが先述の「俺の中の女」だ。

「なんか、男の俺がその娘のことを感じの良い娘だなって思ったとしても、俺の中の女がそのまま鵜呑みにするのを許してないな…みたいな感覚がある。」と言うのだ。わたしは「これや!!」と開眼した。

女の子と男の子から生まれたわたし

どうして、心の中の性別が一つだって思ってたんだろう。卵子と精子が混ざって人間が出来ているんだから、男も女も自分の中にいて当たり前だ。わたし達の心の中には、男の子も女の子も存在する。パパにも似てるしママにも似てるのと同じように。違いがあるのはその割合だ。男の子が多い人もいれば、女の子が多い人もいて、肉体がどう生まれたにせよ、心の中の割合は無限なのだ。

そう思った途端、色んなことがめちゃくちゃ楽になった。え〜すごい楽〜。私は解き放たれた。なんとなく今まで「私は女だから、女の子らしくある方がいいのでは?」と思っていた部分があって、だから、人から「女の子っぽくないね」と言われると「女なのに…なんかごめん…」と、どこかで申し訳なく思ってしまっていたのだ。でも、申し訳なく思う必要なんてそもそもなかったのだ。だって、私は男と女の合体から生まれて、女と男の遺伝子から作られたんだもん。身体がお母さん似だから女ってだけで、心の中にはお父さんもいる。だから男っぽくても当然なのだ。

そう考えるようになってから、他人の気持ちを想像する範囲が広がったように感じる。さっきの鬼ころし片手の私の愚痴も、今までなら「あの娘得してズリー!!」としか思えてなかったけど、「もしかしたらあの女の子の心の中は物凄くおじさんで、だからめちゃくちゃおじさんの話を聞きたかったのでは?」と想像できるようになった。心の中が物凄くおじさんなら、私みたいな小娘の話に興味ないのも仕方ない…のか? なんにせよ、想像力が増すのは優しくなるためへの第一歩だから、シンプルに嬉しい。

…なんか「遺伝子」とか言ってみたりして、ちょっとカッコつけちゃった! けど、学がないので難しいことは全然わからない。男の心にも女の心にも、女の子と男の子の両方が住んでいるとしたって、人の気持ちなんてわからないままだ。でも、「卵子と精子が混ざって人間が出来ているんだから、男も女も自分の中にいて当たり前」って思うことで、「女の子っぽくないね」「男の子っぽくないね」と言う言葉で思い悩む人がちょっとでも少なくなったらいいなぁと思う。

Text/長井短