そもそもそのイバラ、本物ですか?

さて、ここまでイバラの森から生還する方法を考えてきましたが、もう一度よくよく確認してみてもよいのではないでしょうか。
そのイバラ、もとい、その恋は、本当にマジで本気のガチな本物なのかしら? ということです。

既婚者に3年以上も片思いし続ける、それは相当の胆力です。新卒で就職した会社を僅か2年半で辞め、恋人とも1年以上続いたことがない私は、ほととぎすさんのツメの垢を煎じて飲みたいです。 でも、じゃあこの先ほととぎすさんは、その彼とどうなる想定なのか、どうなれば理想なのか。不思議なことに、まったく見えません。

一夜だけでも共に過ごせたら満足なのでしょうか? 愛人として付き合っていきたいのでしょうか? それともご家族や奥さまから略奪して、一緒に人生を歩んでいきたいのでしょうか?

そもそもこの恋が進展したところでそれは、詰まるところ“不倫”以外の何物でもないのですが、所謂“いけない恋”へ邁進する女性心理に付随しがちな罪悪感や葛藤すら、ほととぎすさんには一切ないように見えるのがとっても不思議です。やや不気味にさえ思えます。

『もう恋愛なんか糞食らえって気持ち』と書き捨てながら、ほととぎすさんは実際のところ、恋愛というものをとても大切に思われているように感じます。二股されていた相手は元カレとしてカウントできないと言う潔癖さや、何年間も片思いを続けられる一途さ、むかし好きだったしょうもない男をきちんと記憶に残しておくマジメさ。本当はほととぎすさんにとっての恋愛って、大切で、楽しくて、日々に欠かせないものなのではないでしょうか。

確かにタイヘンな辛い思いをされてきて、投げやりになってしまうこともあるでしょう。でも、ご自身の生き方や恋愛との向き合い方はその実、かなり真摯で切実です。私にはそう見えます。

もしかしてほととぎすさんは、さほどの刺激もめぼしい出会いも、ときめく出来事もない毎日に彩りを添える“必要性”から、既婚者の上司に片思いをしてはいませんか?

冒頭で私は、過酷な状況に陥ったとしてもなお捨てられない恋心があるとしたら、それが本物の恋かもしれないと書きました。仕事を失いたくない理性で踏みとどまれる程度の気持ちならば、具体的な願望も将来を見据える気が起こらない程度の相手ならば、誰の命を絶つか悩むまで思い詰めて、苦しむほどの価値はないのかもしれません。

じっくり見直して、手を伸ばして触ってみて、イバラの正体をもう一度だけ確かめてみましょう。実はほととぎすさんが自ら飾り付けた、単なる造花に過ぎない可能性があります。
進むも、戻るも、焼き払うも、あるいは立ち尽くしたまま刃を振るうのも、ほととぎすさんの自由です。ただ実際に行動へと移すのは、そのしんどすぎる恋心の正体を見極めてからでも決して遅くはありません。

この連載では、引き続き皆様からの恋愛相談をお待ちしています。

誰かの人生をかけた必死な恋愛を正しいとか間違っているとか、決めつけてしまえるほどの知見も権利も、私は持っていません。けれど苦しんでいたら慰めるし、幸福を得られたら一緒に喜ぶことはできます。あとはご自身の希望と正義と道徳心に反しない道を見つけて、迷わず進んでいけることを願うばかりです。
またお会いしましょう!

初出:2017.04.03

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Text/海坂侑

次回は <大好きな恋人に触られたくない。セックスが苦痛な21歳女性の話>です。
AM読者から今回寄せられた相談は、「ずっと付き合っている大好きな彼氏とのセックスに嫌悪感がある」というもの。きっと少なくない数の女性(そして男性も)が悩んでいるはずですが、海坂侑さんの回答は「今この瞬間を大切にしすぎない」というもの。いったいどういうことなのでしょうか?