キスシーンは如何にキスの前を盛り上げるかが大事

――まあ恋愛マンガを描いている人が恋愛経験豊富で、不倫マンガを描いている人が不倫経験豊富、というわけでもないです……よね?

担当:そうですね。経験をもとにされている方もいるかもしれませんが、人それぞれだと思います。経験がないからこそ描ける関係、そうして描かれたふたりにしかありえない関係があると私は思っていて、今回の『あげくの果てのカノン』では米代さんにそれを描いてもらっているんです。

米代:序盤のかのんは、先輩と距離を置いて一方的に眺めているだけだったから良かったんですけど、4話あたりからは「信仰を恋愛感情にして、恋愛を進めないと」と担当さんから言われるようになり、ずっとしんどかったです。

――そうなんですか! 2巻ではさらにかのんと先輩の距離が縮まっていて、かなりイチャイチャしているシーンもあり、「恋愛したてのしあわせな空気」にあふれていてキュンとしましたが……そういうシーンを描くのもつらいんですか?

米代:むしろそういうシーンほどつらいです。ネームを何度描いて出しても「描き直してください」と言われて、10回くらい直したときもありました。

――担当さん、なかなか厳しいですね。

担当:米代さんのネームは構成がしっかりしてるので、米代さん自身がしっくり来ていないときには一発でわかるんですよ。

米代:2巻にはかのんと境のキスシーンがありますが、あそこは特にダメ出しされましたね。「キスシーンはキス自体よりも、キスの前を盛り上げるのが大事なんです」って言われて何度も描きなおすんですけど、経験豊富ではないから本当にわからないんですよ。

「こういう人間とこういう人間が恋愛したらこうなるんじゃないかな」ということは自分の頭のなかでものすごく考えて構築しているんだけど、「こうなる」ときの細かい機微まではわからないから、いろいろな人に意見をもらって試行錯誤するんです。最終的に今回のキスは雑誌連載時の入稿の直前にも直しましたね……。

――OKになるときは、何か米代さんの心境に変化があって壁を突破するんですか?

米代:突破というか、「こんな事で悩んでる場合じゃない」と我に返って頭を切り替えます。

――悩むのをやめると恋愛が描けるようになる(笑)。失礼ながら、そうした葛藤の末に描かれているとはまったく思っていませんでした。

米代:私のマンガは、かならずしも経験をベースにしたものではありませんが、過去に生じた自分の感情を極限までシンプルにして、それを原石にして別の物語をあてはめて描いているんです。『カノン』の場合は、経験したことのない「恋愛」や「不倫」を描くにあたって、自分が想像しやすいように、主人公をできるだけ自分に近い設定にしたら、距離がとれなくなってしまって……。