好きじゃない人とは結婚したくない

 家庭持ちたいって思ったことないんですか?……同じ質問を、表現変えて繰り返す。

「え? 家庭持ちたいよ」

 当たり前のようにスルッと真由子さんが答えた。「え? そうなの??」思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

「え? 彼氏は?」「好きな人は?」小さく開いた穴をこじ開けるかのように、矢継ぎ早に聞く。

「彼氏はいない。好きにもならない。もう10年ときめいてない。でも、セフレ的なのは何人かいる。どういう人なのかは内緒ね。その中からそりゃ本命は作りたいけど、好きにはならない。結婚は、したいけどな」

 そうか、結婚したいのか真由子さん!! 婚活はしないの? という問いに珍しく長めに答えてくれた。

「婚活ってあんまり信じてなくて、怪しい~って思っちゃうんだよね。ガツガツしてるのがあんまり好きじゃないんだよねー」

 いやいや、少しはガツガツしてくれや! と一斉に懇願混じりの野次が入る。
そんな私たちの熱とは反対に、真由子さんはひょうひょうと続ける。

「誰も好きにならないんだよねー。みんな好きな人できるってすごいね、その話聞かせて!」

 目を輝かせて私たちを見る真由子さんに、最近アラサーで飲むたびに出る発言――“でも、ものすごく好きな人との結婚って、多分もう望めないじゃないですか”を口に出してみた。…どこまで妥協するかだよね、というアラサー女子の合い言葉だ。

「そこまで好きじゃない人と一緒にいるくらいなら、結婚しなくていいなあ」

 ひとりで生き続けるのが怖くて、妥協して結婚したり、もしくは妥協できない自分を悩んだりするのに、真由子さんにはそれがない。
妥協するつもりもなくて、つまり好きな人がいない限りは結婚もできるはずがない、と割り切っている。悩んでもいない。

 まっすぐだなあと、眩しく映った。

「悩みも不満もないんだよね。昔からないよー。なんでみんな悩んだり、不満持ったりするの?」

 少しだけ、真由子さんが結婚を焦らない理由がここにある気がした。きっと、幸せ上手なんだ。今の自分の生活を楽しむ力があるから、無理に頑張って結婚しなきゃともならない。

「1年後何してたい?」「好きなタイプは?」次々と質問が続く。

「1年後はね、心穏やかでありたいかな。だから男性のタイプも、穏やかな人。もう“ほうおう”みたいな人で、ボケてるくらいがちょうどいい。イライラするのが嫌いなの」

“ほうおう”のような人がタイプなんて聞いたことがない。真由子さんが言う“ほうおう”が「鳳凰」なのか「法王」なのか分からないが、どちらもひどく雄大だ。

 イライラするのが嫌いで穏やかでありたい、と穏やかな表情でゆっくりと語る真由子さんに、なんだかごめんなさいと思い始めた。そんなおだやかな心持ちの方に、コバンザメのようにグイグイグイグイ質問して、何をやってんだって気分になってくる。

「語らない」ことこそが彼女自身

 今回2人に出会い、考え方が変わったことがある。それは、「思い出話なんて当てにならないな」ということだ。 この企画を通じて話を聞くなかで、「この人にこの歴史ありだなあ」と頷きながら聞くことが多かった。底抜けに明るいハナちゃんに超パワフルな歴史があるように、その人らしい昔話ばかりだった。 でも、じゃあ、真由子さんは?

 真由子さんは、10代の話なんか「ない」っていう。20代も30代も、「特にない」って言う。でも、本当はないはずなんかないじゃない。だから気がついた。
思い出話は、結局は当人が取捨選択し、彩られて話される。今のその人のフィルターをかけて話される。気分が滅入っている時に人に話してしまう思い出は、失敗話や苦労話になるだろうし、逆もしかりだ。
思い出はどのようにもねじ曲げられるし、自然にきっとねじ曲がってしまうものだ。
そんな歴史があるからその人なのではなく、その人だからそんな歴史を語るのだろう。
思い出=過去のその人ではなく、思い出=今のその人だ。

 おだやかーな、まったく自己顕示欲を感じさせない真由子さんが語る思い出にエピソードがほとんどないのも、当たり前のことなのだと思った。
……そんなことを考えてる間、私のバトンを引き継いだかのように編集Oが真由子さんの話を引き出そうとしていた。でも、面白いほどに形勢は逆転され、いつの間にやらOの恋バナを真由子さんが聞き、アドバイスまでしていた。 まったくもって、そういう人なのだろう。

「ちょっとさ、男呼びたくならない!?」という酔っ払ったハナちゃんの問いかけに、条件反射のように「なるーー!」と叫ぶ私とO。

「ならな~い。今気になってるのは、お酒がないなってことだけ」

 とケダルイ感じで真由子さんは答えた。
……まったくもって、人それぞれだ。

 最終的に、真由子さんからはほとんど話を聞けなかった。感情的な発言ももらえなかった。でもそれこそが、真由子さんなんだろうなあと今は感じる。まったく、人は一筋縄では理解できないや! と当たり前のことを痛感した中目黒の夜だった。
そんな、色んな人に会える企画、次はどこの街に行こうかな。どうか、ご期待ください。

 街ゆく人のリアルな恋バナが、ここにある…。

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次回は<セフレからの“彼女の座”を捨て留学へ…見た目とギャップがすごい26歳女子の実情>です。
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