手をつなぐ幸福を「悪いことしてる」と感じた

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 あのころ、なにもかもが新鮮だった。

 実際はじめて彼と手をつないだ日は、嬉しさは半分程度で、残りの半分は混乱と後ろめたさだったのを覚えている。少しだけ“悪いことをした”気持ちになったのだ。
友人に見られたくないという気持ち、友人に言えない罪悪感、手をつないだことへの単純な驚き、家族としかつないだことのなかった手を握られていることへの居心地の悪さが混ざっていたのだと思う。

 好きなひとの一挙一動がこちらを動揺させ、そしてその動揺を隠すのにもかなりのエネルギーを使った。どこか「手をつないだくらいで」と思いたい自分も居て、なんでもないことのように装いたくて、うまくいかなくて、恥ずかしかった。

 でも今となれば、それすらすべて愛しい。あんなに目の前の相手に、心のすべてを持っていかれるなんて。

 もちろん、わたしたちは年を重ねたのだから、いつまでもそんな風ではいられない。でも簡単に「好き」と言えたり、簡単に手を繋げたり、簡単に抱きしめることができすぎるとき、ほんのわずかに寂しさを覚える。好きなひとと手を繋げた幸福を“悪いことをしている”とさえ感じたあの純粋なわたしはどこへ?

 でも、あの日湯船で何度もデートを回想し頭をブンブン振って恥ずかしさを吹き飛ばそうとしたわたしが、時を経てここにいる。だからたまに思い出してみる。自分がまだ10代だった頃のことを。

Text/さえりさん