官能小説を書くときに悩むこと

さておいて話を戻すと、官能小説を書く際に、いつも悩むことがあります。それは主人公を男性とするか、女性とするかです。女性向けのティーンズラブノベルや性愛小説を書く時は、迷わず女性を主人公にするのですが、男性向けのゴリゴリの官能小説の場合は悩ましい。男性といってもおおよそのターゲットは中年から壮年、いわゆるオジサン向けの小説です。なのでだいたい、感情移入しやすい“スケベだけど平凡な中年男性”を主人公にするか、もしくは“中年男性の劣情をそそるようなスペックを持った女性”を主人公にした目線で描くかの二択になる。

読者や編集者からは、女性目線での性愛を描くことを期待されている部分もあると思うのですが、わたしはどちらかというと、男性を主人公にして、中年男性の目線で描くほうが好きです。というのも、「姑息な手段を使わずに、真摯にコミュニケーションを取れば、ラッキースケベはあり得る」というメッセージを、世のオジサンたちに物事を伝えたいという思いがあるからです。

「もしも自分がオジサンだったら…」

しかし不思議なことに、“スケベだけど平凡な中年男性”を我が身に召喚し、その頭の中や行動パターンをなぞるように書き進めていく中で、うっかり気を許すと、ついつい意中の女性に対して卑劣な手段で手込めにしてしまいそうになるのです。
正面から口説いたところで、若く美しく聡明なヒロインが、平々凡々な中年男性に身体を許そうなんて思うはずもないわけで、だったら飲めない酒を無理やり飲ませるとか、ごり押しで終電を逃させるとか、「何もしないから」と嘘八百でホテルに連れ込むといった、ちょっと強引な手をつかってしまえばいいのではないか、という悪魔じみた考えが頭に浮かぶ。

が、そんな安易に肉体を奪ってもわたしの考える楽しいセックス、好きな濡れ場は描けない。わたしが描きたい濡れ場は、立場が非対称になりがちな若い女性と中年の男性が堂々と渡り合う情交なのです。だから悪魔の誘惑を無視し、主人公の中年男性には後味の悪い行動をさせないように心がけているわけですが、それでも「強引にやっちまえばいいじゃないか!」という悪魔の囁きに心が揺れるたびに、わたしの中にも中年男性メンタルがあり、わたしがもしも男性に生まれていたら、女性につけこむことで一発やることを狙ったかもしれないと思うのです。

わざわざオジサンの気持ちをなぞることで、オジサンへの理解を含めて何かいいことがあるのかっていうと、さしてない気もしますが(苦笑)、それでも「もしも自分がオジサンだったら……」は、意外と面白い発見があるので、自粛中の暇つぶしにいかがでしょうか。

Text/大泉りか