人は興味があるものなら、自ら知識を得ようとする

そうは思っても、「母親が性的なことに言及するのに、男はものすごく抵抗感を抱く」という男性の声をまるっと無視するのもどうなのか。可愛い息子に「うちのババア、キモい」と思われるのは嫌です。かといって「セックスはナマ派」と堂々主張する夫に任せられるわけもなく、これを打開するにはどうすれば……と考えたのですが、我が家には本棚というものがあるのです。

人は興味があるものなら、自発的に知識を得ようとする。そして、子どもは勝手に性に興味を抱く。振り返ってみると、少女時代、エロいものが読みたすぎて『家庭の医学』の性に言及した項目を穴が開くほど読んでいたことが、わたしの性の知識のベースにあるように思えます。ならば、しかるべき年齢になった子どもの手の届くところに、性教育の本を置いておけばいいのではないか。

一方で、現在の我が家の本棚には、仕事の参考資料のセックス関連本がずらりと並んでいます。それどころか、わたしの書いた官能小説だってあるし、夫のエロ漫画もAVもある。けれど、そんな社会に確実に存在する、「エロ」のものを完全に取り払うのは、逆に不自然なことにも思える。

ゆえに、完全に捨てるのではなく、かといって、堂々と置くわけでもなく、少し努力すれば手に取れるくらいの陳列方法――例えば、目に入らない上の段に置くとか――と、ついでにエロ関連書物のゾーニングも考えていたところ、夫が「風呂入るぞー!」と息子に声を掛けました。

その右手には件のカップが。「お風呂の水遊びオモチャにちょうどいいわ、これ」と、屈託なくいう夫と息子とが風呂場に消えていくのを、「パパとのお風呂、楽しんできてね」と見送ったのでした。

Text/大泉りか