ルックス最高の男が決意を翻させた

 出版社で働いて、夜更けまでゴールデン街で飲んで、ふらふらとビール片手に甲州街道を歩いて、都心の部屋に帰る。そんな生活にわたしはとても満足していました。「しばらくは特定の彼氏を作らずに遊ぶ」も実行していて、適当に知り合った男性とデートをしたりセックスをしたりして、それも楽しかった。けれど、自分で考えていたよりも早く、決意を翻すことになりました。

 わたしの決意を変えたのは、以前から顔見知りの男性でした。背が高くてガタイがよくて顔が好みだったので、ふとセックスをしてみたら、それも結構よかった。だから、会ってデートをしたりセックスをしたりするようになりました。相手は付き合いたがっていたけれど、わたしはいつも「しばらくは特定の彼氏を作らずに遊ぶから」と断っていました。

 それがある時、セックスの最中に「俺のこと好き?」と聞かれたのです。盛り下げるのもよくないと思い、「好き」と答えると、今度は「じゃあ、付き合ってよ」と言われました。そこは曖昧に流したつもりだったけれども、セックスが終わると、「じゃあ、これからは彼女ってことで」と念を押されました。そこまでされたことで、「こんなにもわたしと付き合いたがってるんだから、考えを変えてもいいのでは」と思った。なんせルックスが最高に好みなのです。

 その男性は、前の恋人ともその前の恋人とも、さらにその前の恋人とも違うタイプでした。港湾で働く肉体労働者で、おまけにバンドマンでした。しかもパンクス。どうですか、圧倒的にカッコよくないですか。漢って感じがムンムンにしませんか。

 今回のこの人も、わたしの生き方は到底理解してくれなさそうな気はしましたが、どっちにしてもこれまでだって、誰ひとりとして理解はしてくれなかった。だから、恋人にそれを期待するのはもうやめようと考えていました。居心地のいい部屋と、小さな贅沢なら出来る稼ぎを手に入れたわたしが、男性に求めたのは、顔とセックス。それがよければいいじゃないの! と、ある意味で男性との付き合いに絶望していたわたしのこの選択は、実は大間違いだったのでした。

――次週へ続く

Text/大泉りか

次回は<「2年経ったら結婚しよう」という言葉がわたしを6年縛り続けた>です。
自分を理解してくれない。嫉妬心が強くて束縛が強い。当然、会えば喧嘩ばかり。そんな恋人にもかかわらず、大泉りかさんが6年も交際していたのは、「付き合って2年経ったら結婚しよう」という呪いの言葉のせいでした。