上司が突然ズボンを下ろし…

 そんなある日、会議がありました。会議といっても小所帯なので、会議室ではなく、編集部の片隅にあるパーティションで区切られたスペースでいつも行われています。
その日は、フリーランスの男性は休みで、編集部には、わたしと上司のふたりだけでした。編集長は珍しく機嫌がよく、会議は穏やかに進んでいました。いつもみたいに、「ちゃんと僕のいうことを聞いてないって、耳が悪いんですか。聞こえてます?」「このままじゃ、あなたの仕事、なくなっちゃいますよ」となじられることも、ハーッという聞こえよがしの溜息が出ることもなく、会議がまるで奇跡のように、無事に終了する直前のことでした。突然上司は言ったのです。

「いやぁ、それにしても、あなたはセクシーですね」
突然のことに、「は、はぁ」と間抜けな声を返すと、上司はぺらぺらと突然、わたしが、いかに性的に魅力的であるかを語り始めました。いきなりどうしたと、あっけにとられているうちに「あまりに魅力的なんで、こんなになってしまいました……自分でしてもいいですか」と突然ズボンを降ろして、勃起したペニスを出し、しごき始めたのです。

 普段は鬼のように怖い上司がいきなりオナり始めた……どうにもこうにも理解が出来ず、ただわたしに出来るのは、オナニーをする目の前の男を見つめることだけでした。上司は数分で達すると「ありがとうございます」とわたしに軽く礼を言って、何事もなかったように席を立ったのでした。

 そこから数日間、上司に叱られることはありませんでした。どんな激しい劣情に駆られたかはわかりませんが、あんなことをしてしまい気まずくなったのだろうかと、わたしは考えました。セクハラをされたことに怒りを覚えると同時に、弱みを握ることが出来たのかもしれないとも考えていました。待遇を改善するための武器に使えるかもしれないと思ったのです。

 しかし、パワハラがやんでいたのもほんの少しの間のことで、怒鳴られ、暴言を吐かれる日々がまたすぐに戻ってきました。けれどもわたしの気持ちは以前とは違っていました。彼には家庭も子供もいて、会社での立場だってある。「会議中にフリーランスの若い女性の前でオナニーをした」とバラされて困るのは、断然に彼のほうです。

 けれども彼は後ろめたさなどひとつも感じていないようでした。おまけに、待遇は改善されるどころか、怒鳴る、無視する、暴言を吐くといったパワハラに加えて、いやらしいことを言ってくるセクハラまでもが加わったのです。