「金がない」が口癖だったバンドマンの彼

 そう、「私怨があるごとく」なんて先に申しましたが、その通りです。バンドマンだった昔の彼(Vo.)にはずいぶんと痛い目に遭わされました。いつも「金がない」と言うので基本的に家メシだったのはいいとして、献立を立てて買い物をするのがわたしであることから、材料費はすべてこちら持ち。デート中、「お茶しない?」と言ったら自動販売機の前に連れていかれ、焼肉が食いたいとリクエストしたら、帰り道に「その金で何が買えたか。どれだけの贅沢をしたか」ということをクドクドとしつこく言われ、それでも我慢をしていたのは、お金がないのは仕方のないことだと思っていたからです。

 しかし「金がない」というわりには、CDを買ったり服を買ったりトイカメラを買ったり健康器具を買ったりしていて、そのことにはもちろん、モヤモヤとした思いを抱いてもいました。けれど、その人が自分で稼いだお金を何に使おうが、わたしに口を出す権利はないですし、そもそもバンド活動をしているのだからCDは必要経費、ダサい服着るのが嫌な気持ちもわかる。トイカメラも、なんかこう、アーティスト気質ってことで関連しているのかもだし、若い頃にバンドに人生をかけていたゆえに就職をせず、結果、肉体労働をせざるを得ない状況で、少しでも身体を楽にするためには健康器具に頼るのも仕方がない、なんていうふうに考えていたのです。

 けれども、どれもこれも、「バンドという好きなことがあって、それを頑張っているならば」という前提があってのこと。わたしの理想は互いの夢を応援しあえる関係だったので、相手が夢を持っているのはいいことだと思っていたし、だからこそ「お金がない」と、デートにまったくお金を掛けてくれなくても、それは仕方がないことだと、理解しようと思っていたのです。