パリでごみ拾いは当たり前

我が家のテーブル、スタンド照明、キッチンやリビングの小棚は貰い物か、拾い物です。スタンド照明は近所の路上に裸のまま捨てられていたので持ち帰り、お気に入りの布でカバーを手作りして愛用しています。
最近は仕事用の椅子を探していると友人に話したところ「その辺に落ちているの拾えばいいよ、うちの椅子も全部そうよ!」と自慢されてしまいました。

他にも映画業界で働いてカンヌ映画祭のレッドカーペットも歩いたこともある(貧乏じゃなさそうな)パリジャンの友人宅を訪問した時には、拾ってきた木の扉をテーブルにしていてそれがなんともオサレでシビれるものでした。

引越しの後などで盛られたゴミの山は、通行人のパリジャンによってどんどん拾われていきます。
先日道端のゴミとなっていた板張りを見つけ「この部品、ちょうど壊れたうちのソファーの修理によさそうだな、でもはずすのに力いりそう…」と眺めていたら、隣で同じくゴミを物色していた筋肉ムキムキのムッシュ(ホームレスじゃないです)が「取ってあげようか?」と1本だけ欲しいかった板をバキバキと剥ぎ取って4、5本くれたのでした。こういうゴミ交流も日常茶飯事です。

どうでしょう? 「パリ」といえば華やかなパリジャン達の生活を想像しがちですが実際は日本人より、うんと質素で理にかなっていると思いませんか? 少なくとも私の生活は超質素です。
「貧乏」というとヒモジイ響きがしますが、パリでの生活は必要なものにはお金を使い、そうでない無駄遣いは控える、という居心地がいい生活をしています。
むしろ東京で生活していたときよりも幸せをかみ締める回数は多いくらいです。

私はパリでパリジャン達の生活を目にしてみて時間の過ごし方、お金の使い方、価値観を根元から覆されたように思います。
というか日本にいたころは、「○○が普通、○○が当然」というみんなと同じ価値観に脅迫されていたんじゃないかと思うのです。

もちろんパリと日本は環境も違うので「パリジャンみたいにやったらいい!」といういい加減な提案はできないですが、
「シーズンごとに服は買うもの」「飲み会は居酒屋でやるもの」「お金がないと恋愛も結婚もできない」って別に誰かが決めた絶対ルールではないですよね?

なんとなく見えない空気や脅迫観念でそう思わされているだけだということに気付けば、少しずつでも自分なりのやり方で楽にやっていける、と思うのです。
お金を使う代わりに工夫しながらやりくりするのも、案外楽しいものですよ。

Text/中村綾花

初出:2013.04.25