プライベートで恋人がいても、
ターゲットと会っている間は本気で好きになる

――ちなみに、工作員の方にも、プライベートで恋人がいることはありますよね?

もちろんあります。

――それでいてターゲットの人と付き合うって、どういう気持ちなんでしょう……?

ターゲットと会っているときだけは、ターゲットのことを本気で好きだと思っています。やっぱり、相手のことをどうでもいいと内心で思っていたら、表情や仕草や雰囲気から、どうでもいい感じがにじみ出てしまうんですよ。

私は工作員を始めたばかりの頃、ターゲットに急に近づかれたときに、無意識に一瞬体を引いてしまったことがあって。すぐに気づいて戻したんですが、これって好きな人に対しては絶対にしないことですよね。相手に好意があれば、パーソナルスペースに入って来られたとき、自分も距離を詰めるはずですから。

――確かに、そうですね。

遠くから記録映像を撮っていた先輩に、「体を引くのは、本当は好きじゃないという深層心理の表れだから、表面的な演技じゃなくて本気で好きだと思い込んで現場に入らないとダメだよ」と怒られました。

――でも、水沢さんも人間なので、ターゲットがどうしても生理的に苦手、ということだってありますよね。

たとえターゲットが、プライベートで会ったら気持ち悪いと思うような相手だったとしても、案件がスタートしたら、個人の感情を持って仕事をしたらいけないんです。切実な気持ちでうちに来て下さった依頼者様に失礼ですから。

――大変な仕事だ……。

嫌がらせ目的の案件はお断り

だから、うちはかなり依頼者様を選んでいるんです。依頼者さんの動機で一番多いのは「復縁したい(だから元恋人が今付き合っている相手と別れるように仕向けてほしい)」。ほかにも、「恋人持ちの相手への片思いを成就させたい」だったり、「跡継ぎの問題で息子(娘)を恋人と別れさせてほしい」だったり様々ですが、いずれも依頼者様が本気で現状を変えて幸せになりたい、という気持ちが伝わってこないとお引き受けしません。

――「嫌いな女がハイスペックな男と結婚しているのが許せない」といった恨みつらみでの依頼もあるのかと思っていたのですが、そういうのは引き受けていないんですね。

そういう相談が来ることはありますが、すべてお断りしています。私たち工作員も身を削ってやっていますし、人の人生を動かす仕事なので、ただの嫌がらせでしかない案件には真剣に取り組めません。

別れさせたらその瞬間はスッキリするかもしれないですが、別れさせ工作は時間もお金もかかることなので、だったら旅行やエステにお金使ってリフレッシュしたほうがいいでしょう、と。無料カウンセリングをする中で、「この人を絶対に助けてあげたい」と思えなかったら、帰ってもらっています。

――なんというか……、めちゃくちゃマトモ、と言ったら失礼でしょうか。「別れさせ屋」ってどうしても、人が弱っているところにつけこんでお金をふんだくる怪しい会社、というイメージがあったので、正直に言うとちょっと驚いています。

どうしてもそういうイメージがあるんですよね。他社さんに依頼してうまくいかず、うちにいらした方もいますが、着手金をもらうだけもらって実際にはたいして工作していなかった、なんて会社も残念ながらあるようです。業界のイメージを変えていきたい一心でずっと誠実にやってきているところもあります。

――お金儲けだけを考えたら、どんな依頼者だろうと引き受けたほうがいいですしね。

料金も期間制ではなく、回数制にしていまして、だいたい150万円くらいで30回分の稼働、が基本となっています。期間制だと、あまり外に出なかったり、無趣味だったりするターゲットの場合、2回くらいしか稼働していないのに期間が終わってしまった、なんてこともあり得ますので。