すべての時間が、金銭的な価値を産む時間でなくてもいい

社会的評価が低くても、金銭的な価値に結びつかなくても、本当は「ただ、居る」だけで人間は尊い。だけどこの本は、そこから先に一歩踏み込む。「ただ、居る」だけで人間は尊いけれど、現代社会でそれはたやすく濫用され、アジール(避難所)だった場所は、アサイラム(収容所)となってしまうことがある。トンちゃんの職場にも、徐々に暗雲が立ち込めていく。

「夫婦のあり方やパートナーとの付き合い方は人それぞれ」。

それはまったくその通りだ。だけど、多様性とか価値観とかの、ふわっとした言葉の問題にしてしまうより前に、まだ社会のほうに変わらなければならないところがあると私は思う。具体的には、家事や育児や介護などの、「依存労働」の価値を認めること。キャリアにおけるブランクの意識をみんなで変えること。人生は長いので、家事や育児に専念したい期間だって、病気療養のための期間だって、学びに集中したい期間だってあるはずだ。

すべての時間が、自分を高めるための時間でなくてもいい。すべての時間が、金銭的な価値を産む時間でなくてもいい。まあ、とはいえ生まれたときから資本主義にどっぷり浸かっている私たちなので、「それでいいのか?」という内なる声はそう簡単に消えてくれないけど。

「ケア」について考えたい人、夫婦やパートナーのあり方について考えたい人、あとは「サバティカル休暇がほしいな〜!」などと宣っている私のような独身は、『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』を読んで、ぜひ感想を聞かせてほしい。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

初の書籍化!

チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。