結婚でさみしさは解消されない

小池龍之介さんの写真

――家族やパートナーに対して、なぜ過剰な期待や要求をしてしまうのでしょうか?

小池

そこに、“特別な絆”や“無償の愛情”があると信じているからでしょうね。
しかし、残念ながら人間関係というのは、多かれ少なかれ「自分がしてあげたから、相手も返してくれる」という交換関係なんです。打算や利害関係が一切なくて、無条件に自我を肯定してもらえる人間関係なんてありません。それは家族やパートナーであっても同じです。

 でも多くの人は、自分が何もしなくても特別扱いしてくれる相手、というのを求めてしまうんですね。

――親子やカップルの間には、“特別な絆”や“無償の愛情”が成立しているように見えますが…。

小池

それは、“幸せホルモン”や“愛情ホルモン”と呼ばれるオキシトシンが分泌されるからでしょう。このオキシトシンの分泌によって、相手に対する献身的な愛情が無条件に湧いてきて、相手の欠点が見えなくなります。ところが、やっかいなことに、このオキシトシンの分泌は、長い人でも3年で終わってしまうそうなんです。
“無償の愛”は、刺激が新鮮な間だけ生じる、およそ3年間の幻想なんです。

――それが幻想なら、多くの人は恋愛や結婚なんてしなくなってしまうのでは?

小池

結婚生活は、“特別”だった3年間が終わった後のほうが遥かに長いから、特別な関係なんて幻想だとわかっていて、相手に過剰な期待や要求を抱かない人のほうが、かえって安定したパートナーシップを築けるんですよ。

 ところが、得てして「結婚したい」と強く望んでいる人ほど、特別扱いしてくれる相手と結婚すれば一生さみしさから解放されると思っています。だから、3年経ってオキシトシンが切れたとき、さみしさを満たしてくれない相手に失望や怒りを抱くようになってしまう恐れがあります。

――さみしさを動機に結婚するのは、よくないですね…。

小池

結婚でさみしさを解消しようとする人は、その期待が大きすぎるので、満たされずにますますさみしさが増幅してしまう。逆に、結婚に過剰な期待をしていない人は、さみしさを解消したいと思っていないからこそ、結果的にさみしさから解放されることができるんです。

 どんな人間関係であっても、一度得られた安心感や充足感が永続するということは絶対にありません。どんな感覚や刺激も、脳の神経に一定の影響を与えたら、やがて必ず薄れて消えていくからです。

 でも、消えていくからこそ、また次の感覚や刺激を受け取ることができる。もしも安心感が薄れなかったら、脳がそれ以外考えられなくなり、他に何もできない病気のような状態になってしまいますからね。

――どんな感情も長続きしないのは、脳に必要な機能なんですね。

小池

永続するものなんてどこにもないのですが、だからこそ人はいろんなことに意識を向けて、絶えず変わっていくことができる。それを“諸行無常”と言うんですよ。

■プロフィール
小池龍之介(こいけ・りゅうのすけ)
1978年生まれ、山口県出身。東京大学教養学部卒。2003年、ウェブサイト「家出空間」を立ち上げる。同年、寺院とカフェの機能を兼ね備えた「iede cafe」を展開(〜2007年まで)。現在は、鎌倉にある月読寺の住職として、宗派仏教を超えた立場で自身の修行と一般向けの座禅・瞑想指導を続けている。『考えない練習』(小学館文庫)、『超訳 ブッダの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『しない生活 煩悩を静める108のお稽古』(幻冬舎新書)など著書多数。

※2016年11月29日に「SOLO」で掲載しました